【HowTo】 鈴虫の飼育法   2017.6.5

去年の秋に産卵させてあった飼育容器を、台所の出窓に置いて観察していたら、先月末にいよいよ孵化が始まった。
周囲に「自分でも飼育してみたい」と言う人がちらほら出てきているので、飼育方法を記してみようと思う。
実際には飼育開始のタイミングは、成虫からだったり、少し育った幼虫からだったりする場合が多いかも知れないが、
孵化から説明を始めることにする。
早めに取りかかるべき準備 - 足場を作る (& 卵のパックを捨てない)
鈴虫は狭いところに隠れるのが好きだし、何よりも脱皮するときには平坦な地面の上だと失敗してしまう原因である。
そこで脱皮の足場と隠れ場所を兼ねて画用紙の“屏風”を作っておく。2段重ねにできるように2つ作る。
更に成長してきた時のための2倍サイズも2つ作る。合計4つの“屏風”を作るのに、八つ切りサイズの画用紙を1枚使う。
ただし世間で言う八つ切りサイズには二通りある。通常売られている画用紙の場合は270mm×380mmになっていて、
このサイズの方が効率的だが、仮に271mm×391mmでも端の部分を切り取って使うことができる。また強度を得るため、
選択の余地があるなら厚手の画用紙が良い(試していないが薄手の厚紙でも良いかも)。
八つ切り画用紙を下図の実線の部分で切り分ける。(破線は折り線だから切らないように) これで16枚に分かれるが、
使わないのは5mm×140mmの1枚だけで、ほぼ完全に八つ切り画用紙を1枚ちょうど使い切ることになる。
 
                                図1
○小さい足場のパーツ
A1:120mm×65mm (折り線5本入) 2枚
A2:10mm×65mm 4枚
○大きい足場のパーツ
B1:240mm×135mm (折り線5本入) 2枚
B2:20mm×135mm 4枚
B3:20mm×135mm (折り線1本入り) 3枚
A1(及びB1)の折り線を、谷折り山折り交互に折って屏風状にする。これを畳んだ状態で、カッターナイフなどを使って
下図のように切れ込みを入れる。この切れ込みは画用紙6枚まとめてなので、鋏では難しい。

  
                     図2
A1(及びB1)の“屏風”を半分開いた状態で、A2(及びB2)を切れ込みに挿し込んで、位置を動かして広がりを調節する。
目安はA2(及びB2)の長さいっぱいに“屏風”を広げる位で、このとき“屏風”の折り目は約60度の角度になる。
  
位置が定まったら、差し込み位置に瞬間接着剤(ゼリータイプが良い)を垂らして固定する。
大きいサイズの“屏風”はそのままでは湿気で撓んでしまうので、下に使う方の1枚は上右写真のようにB3で補強する。
このB3の固定には、瞬間接着剤では紙による吸収が激しくて不適なので、他のものを使う。
ゴム系は長期間粘りが続くのでセルロース系接着剤を使っているが、特にセルロース系に限定する必要はないだろう。
注意すべきなのは乾いた後に水に溶けにくい接着剤である必要がある点くらいだ。
逆に差し込み口のところにもセルロース系接着剤を使う方法もあり得る。多量に出たり、紙の吸収も悪くて扱い難いが、
乾燥してしまえばちゃんと固定できる。
乾燥した後に、更に撥水塗料を染み込ませておくと耐久性が増して、次の年も利用できたりするので「ご随意にどうぞ」。
二度の乾燥期間を要するので、更に数日早めに作成しておかないと孵化に間に合わない点には注意。
実のところ足場作りを早めにする理由は、接着剤の乾燥期間が必要だから。完成直後では揮発物質で鈴虫がやられる。
  
上左が完成した足場の写真で、上右は使い方。
直接土に触れないようにするための鉢底網を敷いてその上に足場を置く。初めは幼虫が小さいので1段だけの方が良い。
育ってきたら15日程度で、写真のように2段重ねにする。
卵のパックは餌皿を作るのに利用する。卵のパックが捨てずに残してあれば、餌皿の加工は直前でも構わない(下記)。
ただし偶に使えない形の卵パックもあるので、下の説明は先に読んで置いて欲しい。
孵化までに間に合えば直前でも良い準備 - 飼育用具と若干の工作
以下は飼育容器とその中に入れるもののリスト。
・飼育容器は通常のプラケースで良い。小サイズ:底面が10cm×15cm程度。大サイズ:底面が20cm×30cm程度。
 下記の方法で不織布を蓋の方に貼りつけておく。そのために四角くて曲面でないケースが良い。
・土は特に選ばない。砂などで良い。ただし少量の赤玉土を縁に近い位置に並べて押し込んでおく。
 この赤玉土の役割は、土の乾燥をいち早く気づいて水を足す目安にするため。水分量で色が大きく変化するため。
 赤玉土単用でも悪くはないが、小さい幼虫は赤玉土の隙間に入り込んでしまって、姿が見えなくなることもある。
・足場 … 上記の方法で作成。
・鉢底網 … 足場の大きさに合わせて鋏で切る。
・餌皿 … 4つ。下記の方法で作る。
次からは世話するために必要な道具のリスト。
・主食:「鈴虫の餌」として、季節になればホームセンターや百均でも売られている。
・副食:野菜や果物、煮干し。… 何でも食べるのでいろいろ試すと良い。キュウリとナスに限らず大概のものを食べる。
 唯一桃だけは避けているのだが、それはキリギリスで食餌行動が止まらなくなって死んでしまった経験があるからで、
 鈴虫にも念のため与えないでいる。
・大型ピンセット:できれば30cmくらいのもの。通販で入手できるが1本千円以上する。
・大型スポイト:これもできれば30cmくらいのもの。手に入ればケミカルスポイトがちょうど良い。
・先端の小さな薬匙 … 匙の部分が幅5mm程、柄は15cm程度。化学薬品を扱うためのものにちょうど良いものがあるが、
 値段が気になるのでコーヒー攪拌用のものに割り箸を付けて柄を長くしたもので代用している。
・筆 … 餌皿に残った餌と鈴虫の糞を掃除するため。鈴虫を追い立てるのにも使える。
飼育容器の蓋に不織布を貼る。
主な目的は小バエの侵入を防ぐためのもの。小バエが増えると不快なだけでなく、鈴虫の病気も媒介する危険がある。
この作業に必要なものは以下の通り。
・不織布 … 飼育ケース大小にそれぞれ1枚必要。園芸資材売り場にあるものなら確実にそれより大きい筈だ。
・両面テープ … 飼育ケースの蓋の縁の幅に合わせて、幅5mmや10mmのものが必要になる。
 大手メーカーの両面テープでは大丈夫だったが、100均のものでは剥がすとべとつきが残ってしまうものがあった。
 後で剥がして別の用途に使いたい場合は、安い両面テープは避けた方が無難かも。
・カッターナイフ、鋏
・お好みで温湿度計を用意する。
飼育容器の蓋を外して身の方に被せるように不織布を載せ、少し大きめに不織布を切る。
その不織布の端に6箇所程度セロハンテープを付け、飼育容器の身の側面に止め、ピンと張るようにする(下左写真)。
このとき、セロハンテープの端が飼育ケースの縁の部分に被らないようにすることが重要。
  
容器内の温度と湿度を測る場合は、飼育ケース蓋の裏側に上から見えるように温湿度計を取りつける(上右写真)。
取りつけ方法は状況に応じて。テープを使う場合は、温湿度計の空気を取り入れる穴を塞がないように気をつける。
写真の飼育ケースと温湿度計は各々別の100均ショップのものだけど、何だかぴったりのサイズだね!
   
再び不織布の作業に戻る。蓋の縁の身と当たる部分に、ぐるりと一周両面テープを貼る(上左写真)。
このときケースが湾曲していると両面テープが貼りにくい。ただし多少の湾曲程度なら引っ張って曲げれば大丈夫。
両面テープの剥離紙を剥がして、不織布の上から身の方に被せて、飼育ケース本来の方法で蓋をする(上中写真)。
更に蓋を押しつけて不織布と両面テープがくっつくようにした後に、6箇所程度止めたセロハンテープを剥がす。
セロハンテープは不織布に残したりせず、もし剥がれなければ不織布ごと引きちぎってしまった方が良い。
そのまま蓋を外すと不織布が蓋の方にピンと張った状態で付いてくる(上右写真)。
そこで更に爪で不織布の上から擦って馴染ませた後で、不織布のはみ出した部分を、鋏で切り取れば完成である。
拘るならカッターナイフで両面テープの際のところを切っても良いが、割と切れにくいようだ。
しっかり両面テープが不織布に馴染むと、不織布の網目を通して両面テープの粘着力が指に感じられるようになる。
そのため蓋が身とくっつく感じがする場合もある。
以上のような構造なので、世話をするときは蓋全体を外すことになる。
餌皿を作る。
餌皿も大小2種類作る。必要なものは以下の2つと、それらを切るための鋏のみ。
・卵のパック:小さい餌皿に加工する。
・プラカップ:大きい餌皿に加工する。紙コップの代用にする薄手のやつを4つ。
小さい餌皿を作るのには、卵のパックの尖っていない、平たくなった方の部分を利用して、その部分だけ切り出す。
切り出した餌皿の縁は2mm程度立ち上がれば良い。体長3mm程の若齢幼虫が簡単に登れるためだ。
縁は斜めになっているので実際には3mm少々残すくらいの感じであるが、いきなり3mmを攻めると大概失敗する。
そこでまず5-10mm程度残すように切って(下左写真の中程)おいて、少しずつ切り足すように調節していくのが良い。
そうやって完成したのが下左写真の左端である。これを4つ作る。
  
同じようにしてプラカップの底の部分を切り出すと、大きい餌皿ができる。縁の部分は5mm程度残っていれば良いが、
小さい餌皿と同じように少しずつ切り足していくのがコツである。これも4つ作る。
孵化してからの世話
卵は土の中に産んである。前の年の産卵させるときに、若齢幼虫を飼うための小さい飼育ケースに産卵させると良い。
もし別の容器に産卵されている場合は、幼虫を入れる前に次のように飼育容器をセットする。
前年に小さめの飼育ケースに産卵させていた場合は、土以外の作業を、幼虫を潰さないよう気をつけながら行う。
まず用意した飼育ケース(小)の底に土(砂)を敷く。5-10mm程度で充分。土を深く敷いた方が水やりの頻度が減るが、
それだけ上の空間が狭くなって、世話の時に鈴虫が飛び出してしまう危険性が増大する。
なお、前年にこの容器に産卵させていた場合は、土がもう少し深く入っているから、
幼虫が逃げやすくなるが、そこは注意するしかない。もちろんそのために容器を移動しても良いし、
そもそも孵化の成績が良い場合には、あっという間に増えすぎて容器を2つに分けたくなることも多い。
赤玉土(粒の大きさは小さい方が扱いやすい)を土の表面の容器側面に近い位置に、指で押し込む。
大型スポイトで水をかける。最初だけは赤玉土の色で判断できないので、容器の裏側を観察して水の量を調節する。
底面の半分くらいが濡れれば良い。ケミカルスポイトで3-5回程度だ。
土をセットしたらその中央に鉢底網を置き、その上に画用紙の足場を1段だけ置く。餌皿は四隅に置くがその前に、
2つの餌皿に「鈴虫の餌」を薬匙で載せる。更に煮干しを千切った破片(あるいは煮干しは鋏で切ってもOK)を載せる。
この2つの餌皿は乾燥した食べ物用で、餌を載せたらピンセットで縁を挟んで、対角線状に2箇所の隅に配置する。
ピンセットで餌皿の縁を挟むとき、思った以上に挟んだ衝撃で餌が跳ね飛び易いので、そっと優しく挟むのがコツだ。
残りの2つの餌皿に野菜や果物を載せて、同様にピンセットで縁を挟んで残った2箇所の隅に配置する。
因みにこの作業でピンセットが長いと助かる。特にこの後、幼虫が育つと飼育容器が大きくなって足場も大きくなる。
そこに短いピンセットだと、手を容器の中に入れるような感じになるが、その拍子に鈴虫が手に集ってしまうのだ。
振り落とそうとしても意図しない方向に吹っ飛んで行ってしまったりするので、容器の中で追い立てることになるが、
簡単に飛び降りてくれないので楽ではない。
以上のセットが完了したら生まれてきた幼虫を入れる。潰さずに手で摘まむことは不可能なので、次のようにする。
まず何か紙を幼虫の前に差し出して、紙の上にに追い立てる。紙に載ったら新しい容器の中に入れて紙をはじく。
紙をはじいた衝撃で幼虫が新しい飼育容器の中に落ちる。←★
これを繰り返して全ての幼虫が新しい容器に移動したら終了だ。けれども卵からスタートして容器に移動する場合は、
この作業が2週間くらいの孵化期間、毎日続くのだからちょっと大変かも。
毎日の世話
飼育容器の置き場所は冷暗所が良い。普通の家なら玄関や北向きの部屋など。日中人がいない場合は少し難しい。
温度が40度とかになるようだと死んでしまう。冷房を入れておくか換気扇を回し続ける以外にない。
学生はワンルームマンションの一人暮らしが多くて難しいが、最上階でなければどうにか大丈夫な場合が多いようだ。
中には「最上階なので」と大学で飼育する学生もいるのが実情だ。
また置き場所のコツは、毎日自然と見るような場所に置くことだ。最良なのは食卓や台所から中の様子が見える場所だ。
自然と「あぁ、この野菜を取り分けておこう」と思ったりできるからだ。
その後は1-2日1回餌皿の餌を交換する。最初の内は本当に食べているのか心配になるくらい餌の減り方が少ないが、
それでも交換する。古くなると餌が黴びたりして、鈴虫が食べられなくなってしまうからだ。
「鈴虫の餌」は黴びているかどうか見分けにくいが、ちゃんと湿気を保っていれば3日程で黴びてしまうようだ。
なお鈴虫は少し腐敗が始まった程度の野菜などを、むしろ好んで食べるのだが、その状態に調節することは不可能だ。
だから野菜や果物も交換するのが基本だ。火を通した野菜などはすぐ腐るのでダメ。味付けしたのもダメ。稀に農薬が
残っていてやられることがある。水で洗った方が安全。って言うかこれ、人間には害ないの?
餌の交換と同時に赤玉土の色も見て、乾燥している場合は土に水をかける。このとき足場や餌に水がかからないように、
土の露出している箇所に、土の水分吸収ペースに合わせてスポイトでゆっくり給水する。
鈴虫は割と乾燥に弱いので、乾燥してしまわないように気をつけることは、結構重要な注意点だ。
 
上写真の左端は完全に乾燥した状態で、右端は吸いきれずに水が表面に浮いている。ちょうど良いのは真ん中の2つ。
左から3つ目程度になっていたら翌日までにもっと乾くので、その時は右端にはならない範囲で給水すべきだ。
もし世話をしているときに逃げ出してしまったら、上記★の方法で容器に戻す。だから世話をするときは手の届く所に、
何か適当な紙が用意してある方が良い。
全滅させてしまう原因は、殺虫剤か乾燥・高温などだ。蚊やゴキブリなどを素早く退治しようとするときが、割と危ない。
それ以外には、手に殺虫剤や虫除けスプレーが掛かった状態で世話をしてしまう失敗がままある。
殺虫剤の種類によって鈴虫への作用は異なり、スプレー式の殺虫剤は危険だが、蚊取り線香などのピレスロイド系は、
比較的平気。ただしピレスロイド系以外の成分を混ぜている場合もあるし、鈴虫は蚊よりも鈍感と言うだけで、
幾らでも高濃度にして大丈夫というわけではないのでやはり要注意。エタノールには人間同様酔っ払う。多量なら寝る。
更に多量なら死ぬ。全て人間同様。
昔テレビでキリギリスに酒を飲ませて気分良く鳴かせようとしているのを見たことがある。結局失敗して寝てしまったが。
身体が小さいから飲ませる量の調節も難しいはずだ。
観察 よく見ると脱皮していることがある。足場の側面に下向きに重力も使って脱皮するのが一番標準的なパターンだ。
他の場所で脱皮することも多いが、大きくなってくると失敗しやすくなるので、足場の存在は欠かさない。
餌は「鈴虫の餌」を好んで食べる。煮干しよりもその方が好きなようだ。野菜や果物でわりと好きなのはニンジンとか、
バナナの皮だが、これは飼育した学生によってかなりばらつきが大きい。キュウリを好んだと言う人もいれば、
キャベツが良かったと言う人もいる。因みにキャベツは乾燥しにくいのに腐りにくい。長持ちするので何かと重宝する。
数日家を空けて世話できないときなどはキャベツが良い。
下記の方法で育てていって、体長が1cm近くになった頃には、雌には産卵管が見えてきて、雄と区別できるようになる。
元々性別に依らずお尻の先には2本の尾角が出ている。その2本の尾角の間にもっと太く出るのが産卵管だ。
成虫の雌では尾角より長くなるが、最初は非常に短い出っ張りのようにして出てくるので、慣れないと分からないかも。
最後に成虫になると翅の形も違うので、それによって区別することもできる。
雌の前翅は特に目立った構造がなく、身体に密着するようになっている。雄は翅を擦って鳴くために平たい大きな前翅だ。
更に後翅が前翅と身体の間からお尻の先に突き出ていることも多い。後翅の長さは個体変異が大きく見えない事もある。
結局雌の場合で成虫になると、尾角2本、産卵管(黒)1本、後翅2本、合計5本に見えたりする。
後翅や雌の前翅は、脱落しても別段命に関わらないので、生活している内に外れてしまうことがあるが、心配ご無用だ。
却ってよく食べて太った雌の翅は脱落しやすいとも言われる。
  
上左写真は雌成虫。左向きに地面にいるところで、頭には長い触覚が2本ある。触覚は成虫では根本から半分程が白く、
先の方約半分が黒い。お尻には黒い産卵管1本と色の淡い尾角2本が見える。後翅は脱落したか見えない。
上右写真は羽化直後の雄。まだ翅が白い。白い前翅の裏側に後翅が2本透けて見えるが分かるだろうか?
暫くしてある程度身体が固まったところで、自分が脱いだ殻を食べている。これを共食いと勘違いする人もいるが、
この場合は不要になった殻の“有効利用”と言ったところだ。飼育する学生は環境をテーマに学ぶ学生なので、
このような行為を「資源を無駄なく大切に使う」なんて話したりしている。
だが本当の共食いも起きる。成虫期前半までに頻繁に起きる場合は、餌も含めた環境全般を再検討すべきだが、
季節の終わりには雌が雄を食べてしまう。弱った雄の足を咥えて引きずって、更に体力を奪うなど。見たくない光景だが、
最後は必ずそう言うことになってしまうようだ。
大きくなるに従って
2週間ほどすると体長5mm程度になってくる。そうしたら足場をもう一段重ねる。折り目を下の足場に直角方向に重ねる。
ところで最初から2段重ねにしないのは、餌皿までの歩く距離を短くするのが目的だ。
餌皿を2セットにしているのも同じ理由からだ。実はキリギリスではその辺が大問題で、餌があっても餓死したりする。
脱皮に必要な高さを確保すると、容器の下の餌に気づかずに上の方に居続けたりするのだ。けれども鈴虫は割と大丈夫。
むしろ低い場所を好むので、餌を見つけられずに餓死する事態は起きにくいようだ。
更に10-15日ほどして体長7mm程になったらいよいよ大きい飼育容器に移す。飼育容器の準備方法は小さいものと同じ。
土の深さは別に深くする必要はなく、5-10mmで構わない。また大きな足場も最初は1段で始める。
ここで産卵までこの容器で済ませる場合の方法を述べよう。その場合は大きい容器には土を入れないでおく方が良い。
産卵床は小さい方の飼育容器に土を入れたものを、大きい容器に入れるようにするのだ。
その場所以外には産卵できないようにするために、大きい容器の底には土がないようにする。
けれども湿気は必要なので、脱脂綿などを入れて置いてそれに毎日給水する。土と違って乾燥しやすいので毎日になる。
また少し給水が多いだけで水が流れるので、鉢底網1枚だけでは足場が濡れる危険性ががある。鉢底網を重ねたり、
可能ならもっと厚みのある編み目状のものを探して使う。
更に10-15日して体長1cmほどになったら足場を2段重ねにする。この頃になると食べる餌の量もかなり増えている筈だ。
餌が古くなるのではなく、餌が1日でなくなっていることもあるかも知れない。餌がない状態では共食いの原因になるので、
1日待たずともその場で急いで与える。
成虫期
飼育環境によっても少し違うが、順調に成長すれば孵化から2ヶ月ほどの8月前半には成虫になる。2-3日日で鳴き始める。
最初は鳴く練習というか、翅を動かす筋肉が未発達なのかも知れないが、巧く鳴くことができない。
更に2-3日すると良く鳴くようになって、声にも力が出てくるようになる。そうすれば交尾できるようになったとみて良い。
もし複数の容器に分けて育てる場合(私はそうしている)、兄弟姉妹を交配するより従兄弟とかの方が良いので、
最初の成虫が現れた頃に雄と雌を一旦別の容器に分けて育てる。従ってその間だけ容器が2倍の数に増えることになるが、
過密状態で育てるためか、雌の数が少なくなる傾向があるので、産卵床を入れた小さい容器に雌を移すようにしている。
当然どの容器の雄と対応する雌か書いたシール(剥がれにくいので絆創膏を使っている)を貼って区別する。
産卵床は土の深さを2cm程度に深くした方が良い。ここでは5mmでは不足だ。雌の産卵管の長さよりは深くする必要がある。
また深くした方が水分管理を大雑把にできるメリットもある。何しろ鈴虫は一生の2/3を卵でいるのだから、
飼育者にとっても毎年の2/3は卵の管理なのだ。卵の間はできるだけ放置する方が楽だ。
土が少ないと乾燥しやすいが、土が多ければ簡単には乾燥しないので、容器にビニルなどを被せれば何ヶ月も給水不要だ。
ただし卵も呼吸しているので、2-3ヶ月に一度は開けて空気を入れ換えてあげている。
 
産卵用の小さい容器を大きい容器に入れると、大きい容器は狭くなるが、足場を立て掛けるようにして小さい容器の中に
入れるようにする。また小さい容器から出るときも足がかりがないので、内側に縦に絆創膏を貼ってあげる。
卵の世話
成虫期間は幼虫期間と同程度で約2ヶ月だ。つまり10月前半で姿を消すことになる。全て死んでしまったら大きい容器から
小さい容器を取り出して、土の表面の排泄物などをピンセットでつまんで、できる範囲で掃除しておく。
絆創膏も剥がす。更に土の湿り気を調節したらビニルを被せて、蓋をするとビニルが固定されると言う寸法だ。
秋の間は乾燥させると良くない。厳寒期は乾燥させても大丈夫だが、春になってからも乾燥は禁物だ。
また冬に寒くなることが必要なので、もし家の中が全館暖房の状態になっているなら、ベランダとか戸外に出す必要がある。
ただし直射日光は内部を異常に高温にすることがあって良くないので日陰に置く。
容器の側面に卵が見えることがある。雌が2-3匹もいれば、何百もの卵が産み込まれているはずなので、側面に見えない
ことの方が稀だ。けれども見えなかったからと言って「産卵されていない」とは言えないので諦めずに世話する方が良い。
卵の長さは4mm程度で細長い白っぽい色をしている。最初はほんのりピンクがかった白で、それがわずかに太くなってくる。
卵も土の中で成長するのだ!
そうやって孵化間近の頃には太さだけでなく色も変わって、やや黄色み帯びた白色になっている。何も変化しなかったり、
逆にしぼんでしまったり、中には黴びてしまったりする卵があるが、それは死んでいるか、元々無精卵なのだ。
 
上の写真の下の方に見える白くて細長いのが卵。ケースの側面から見える位置に産み付けられているものを撮影した。
この卵は既に孵化間近である。よく見ると、その左上にしぼんでしまった卵がある。見ての通り卵の深さは結構ばらばら。
雌が産卵管を差し込んだとき、深くまで届いていないことも多いのだ。
翌年5月末から6月にかけて孵化するはずなので、4月か遅くも5月にはビニルを取り去って、時々給水しながら孵化を待つ。
同時に毎日頻繁に見る場所に卵の入った飼育容器を移動して、孵化したらすぐ気づいて世話を開始できるようにする。
数が増えすぎて困ったとき
以前も書いたが遺伝子攪乱を問題にする向きもあるので、できればどこの鈴虫か不明の個体を野外に放つのは避けたい。
個人的意見としては遺伝子攪乱を問題にする研究者にやましい動機を感じたりもするので、複雑な気分だが...。
そのため「鈴虫の鳴くキャンパス計画」(25,32)に取りかかるときに、地元佐賀の個体を捕まえて飼育し始めたのだった。
そこで佐賀にお住まいの方は私から入手することをお勧めする。その個体の子孫であれば佐賀に放っても構わない訳だ。
近隣であっても筑後平野辺りなら許されるだろうし、また近ければ佐賀に来て放つのも簡単だ。


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