鈴虫計画、2015年の進展 2015.9.24 |
今朝夢の中に鈴虫を飼育した学生が出てきた。そこに去年の学生がいたのは間違いないが、人数が多かった。
人数から考えると、去年と今年両方の学生が一緒だったのだろうか? ... 所詮夢のこと、何でもありか。
何か気になることがあったのに、彼ら(彼女ら)に声を掛けないで別のことを優先して、
「んっ、またやらかした。優先順位が違う。目の前に今いる学生に聞くことが、1人でもできる仕事より先だよね。」
と思ったところで目を覚ました。いつも私は臨機応変ができないのだ。
今年も学内のビオトープに鈴虫を放った。受講生数は6人で去年より少なかった。そこで1人30匹にしてみたが、
生存率が低くて、7月末に放ったスズムシの数は去年の半分ほどだった。
今年の学生のカラー
下の写真は今年の看板。絵を描くことに力を入れてくれた学生が1人いて、2枚の看板の内の1枚は凝ったものに。
多くの色を使っているから、立ててみるとやっぱり見栄えがする。
ただし残念ながら今となってはすっかり色が褪せてしまった。去年は紙に描いてラミネートしたが、
今年は金属や樹脂製の白い板の上に直接に油性のマジックペンで書いて、それを掲げている。
そうすると油性マジックの色素に当たる紫外線が増える。去年の方法ではラミネートフィルムである程度カットされ、
紫外線による色素の化学反応を遅らせてくれていたはずだった。それでも半年程で褪色した。
ラミネートフィルムがどの程度貢献しているか分からなかったので、試す意味も含めて今年はフィルム無しにした。
予想以上に褪色が早かったので、来年はまた少し考えた方が良いだろう。
ラミネートフィルムだとA3サイズまで、実際には戸外で使用するには紙のサイズはA3より更に小さくした方が良い。
紙の外側のフィルム同士が接着する部分が狭いと、そのうち剥がれてくるからだ。結局ラミネートではB4程度まで。
それに対して今年の方法では一回り大きくすることができていた。
ところでこの後、右の看板は台風に支柱をへし折られてしまった。看板の面積に対して支柱が細かったのだろうか?
去年の支柱がまだ腐っていないようなので、そのまま使ったのだけど...、まだ鈴虫が鳴いているのに...。
凝った絵を描いてくれたこと自体は良いことだ。問題は看板描きに予定外に長い時間を消費してしまったことだ。
予定では飼育の時に使う足場の小サイズを組み立てるところまで進むはずが、次回送りになってしまった。
当然次回は作業量が多くて授業時間内に終わらないし、足場も組み立ててすぐに使うと接着剤の溶剤が揮発して、
鈴虫に有害なので1週間乾かすはずが、ドライヤーの熱風で無理矢理乾燥させる事態に。
絵を描くのには大変な力の入りようだったけれど、飼育に関しては少々雑だったようで、早々に全滅させた人も。
手元に飼い続けていた幼虫を改めて分けてあげたら、その後の飼育では高い生存率だった。
けれども他の学生も全体的に生存率が低かった。原因は世話をサボったことが大きい。乾燥や餌不足。
そうすると餓死したり共食いしたりする。去年と比較するには、単純に放った鈴虫の数を渡した数で割るのでなく、
全滅させた学生が放った分は除外するべきだが、すると更に低い生存率だ。
染谷先生に聞くとこれは今年の学生のカラーなのだそうだ。根気を要する継続的作業が総じて不得手ならしく、
毎日攪拌する必要のある堆肥作りでも苦戦していたと言うことだ。
生息場所の条件
去年よりも認識が深まって前進した部分も多い。まず試して見たのは、去年庭で最後まで鳴いていた場所のように、
2箇所に石を積み上げてみた。必ずそこに居着くはず、と思ったがそれ程でもなかった。
意外にも石積みの場合、今年の庭で様子を見る限り、日陰の石積みよりも日向のものの方が好まれているようだ。
この点は後に記す湿り気に関する認識と食い違う結果で、どう解釈して良いのか結論に至っていない。
敢えてまとめれば、昼間は高温乾燥気味になり、夜になると温度低下が激しく湿り気も増えるような石の隙間を好む、
と言うことになるが、温湿度変化が大きいのが良い理由が思いつかない。
石積みに加えて、今年もう1つ試して見たのは、大波のスレート波板を小波スレート波板の傍に設置したことだ。
去年の結果に記したように、庭に設置したスレート波板では、
幼虫期は小波が良く、成虫期は大波の方が良いらしい。雄の成虫は触角を振り回せる程度の空間を好むようだ。
それを受けて大波も設置したわけである。因みに設置作業は環境フォーラムの環境教育班で行った。
その環境教育班が実施した「すずむしのおんがくかい」は大雨で集まらなかったが、遊んでいる内に雨が上がった。
小学生の男の子が非常に辛抱強くて、ついに大波スレート波板の所で鳴いている鈴虫を観察することに成功した。
大人でも我慢しきれずに急に近づいて驚かせ、姿が見える前に鳴き止んでしまうことが多い。
● 行き止まりと穴
更に庭と学内で違ったことも試して見た。庭では去年の予想を踏まえて、空間に行き止まりを作るようにしてみた。
具体的にはスレート波板の隙間にボロ切れを丸めて押し込んだ。この作業は冬の間にやって置いた。
結構手間とコツが必要で、隙間に入れた火挟みを持つ手も痛い。学生にやらせる仕事としてはどうだろうか?
一方学内では、スレート波板に穴を4箇所空けた。またここでも触角が簡単に入る大きさの穴が良いかも知れない。
後は予算との相談で直径が65mmのコアドリルを選んだ。
どうして穴を空けると良いと思ったのか。板を重ねただけの構造では一旦外に出ないと裏側の隙間に移動できない。
その点は前々から気になっていたが、去年は穴を空ける余裕もなければ予算もなかった。
鈴虫を捕まえようとして手こずる場面を思い出す。走って逃げる鈴虫が、すぐ板の裏側に回り込んでしまう。
その素早いこと。蜘蛛などの補食性小動物から逃れる時もきっと同じなのだろうな、と想像した。
去年も記したように一番危険だと感じているのはアシダカグモだ。
走力では逃げ切れない相手だが、鉛直面以上に有利な場面を思いついた。板の裏に回り込む早業で鈴虫が勝る。
鈴虫に比べてアシダカグモは鉛直面で余分に足が遅くなるだけでなく、板の裏側に回るのも鈴虫ほど素早くない。
基本的に平らな面を高速で走ることに特化したアシダカグモにとって、板の端のような場所は“関所”みたいなものだ。
人間で言えば、急いで走っているときにエレベータを待たなければならないような感じ、と言ったらさすがに大袈裟か?
穴を空けたのは、板の端を多くして追っ手から逃れやすくする意味でもあった。
さて結果はと言うと、穴を空けたスレート波板は効果があった。一方布を詰めたスレート波板の効果は判然としない。
穴を空けた学内のスレート波板の近くで多くの鈴虫が鳴き、空けなかったスレート波板の近くでは声が少なかった。
実際には対立仮説も複数存在して、まずは電灯が後者の近くにあって明るいこと、また草が少ないことも気になる。
特に草は去年から気になっていて、既に増やす方向で動いている。それに加えて来年は、
全てのスレート波板に穴を空けることにしようか。
それには小波サイズに合った小さい直径のコアドリルも必要だが、来年は予算が付かない可能性が出てきている。
既にある少々小さすぎるコアドリルを使うか、大波向けの65mmのコアドリルを使うか、それとも通常研究費で買うか?
まだちゃんと考えていない。
● コンクリートブロックとアスファルト波板
スレート波板の代わりとして、庭で今年試した2つの方法は、いずれも今ひとつの成績か、あるいは使いにくかった。
まずコンクリートブロックを2種類、数十個買ってきて、隙間を作りながら3段重ねに積み上げた。
最下段は土に埋もれてブロックの中の空間に下から鈴虫が入れなくなるので、ダイヤモンドカッターで裾を空けた。
舞い上がるセメント粉末が鼻の穴に入り、髪の毛の間にも入って、全身粉だらけだ。切断時は息を止めて作業する。
「これを学生にやらせたら、嫌がるだろうな」と思った。
庭の少々奥まった場所なので、普段はそこで鳴いているかどうか分からない。成虫期になってから様子を見に行くと、
期待通りに鳴いていた。のだが、スレート波板の大波と比べて多いとは言えない。
更に問題を感じたのは、昼間に別の用事で近づいてみると、コンクリートブロックの隙間に(コ)アシダカグモが多い。
何故か卵嚢を抱えた母蜘蛛が多い。コンクリートブロックの側面の平らな部分が彼らに快適なのかも知れない。
そこでこの冬は、その平らな部分に数本の釘を打って、釘の間に針金を張って見ようと思う。脚が引っかかるように。
しかしそれで成功しても手間が掛かりすぎで、スレート波板と同程度では割に合わない。
次にアスファルト波板だ。どうやらスレート波板は店頭から姿を消しつつあり、その後継がアスファルト波板らしい。
そこで試して見たのだが、正直言って「どうしてこれで代用できるのかな」と感じてしまった。
柔らかすぎて、立て掛けると波の筋が横方向の板は撓んで、その手前の波板との間に隙間ができてしまう。
これでは屋根に葺くときも歪んで正確な施工が難しくはないか? と思ってその後、売り場の施工サンプルを見たら、
何と歪んだまま固定してあるではないか!
更に切断も工具にとって負担が大きい。丸鋸だろうが手引鋸だろうが、摩擦すると刃に粘り着いて容易に取れない。
仕方なくとうとう金切り鋏で切ることにしたが、その方法は切断面が綺麗である必要のある場面ではダメだ。
ついでに言うと高温耐性も足りないように感じる。セールスポイントに高温耐性を挙げているのだが、
それは長所と言うよりも、アスファルトだから高温に弱いけれど、この程度まで耐えられます、と言う意味でしかない。
色も暗色系。夏の直射日光で暖められたときの表面温度から考えてぎりぎりの温度だ。長所のように謳ってあって、
何か表現に違和感を感じるよなぁ。
肝心の鈴虫はどうだったのか。確かに悪くはない。アスファルト波板の所では割と長期間に亘って鳴き声がしていた。
むしろ色が黒っぽいから、鈴虫にとってはスレートの灰白色よりも快適かも知れない。
けれども総合的に考えて、やっぱりスレート波板に軍配が上がると思う。柔らかくて扱いにくい点が如何ともし難い。
加工時にも設置時にも、それが大問題になる。
● 温度と湿度
もうひとつ気になり始めているのが温度・湿度だ。今年は8月中旬まで高温で暑くて、更に雨が少なく乾燥していた。
その気象状況が下旬頃から急激に変化して、暑さがおさまると同時に雨も頻繁に降るようになった。
台風も来て私の庭でもいろいろ被害をもたらしたが、それも含めて雨が多くなり、高温乾燥状態は一気に解消した。
その時期に遅ればせながら、今年の鈴虫は鳴き始めた。去年は8月上旬の羽化後すぐに鳴いたが、雨が多かった。
今年の鳴き始めを遅らせたのは高温と乾燥ではなかろうか?
今年最後に雄の鈴虫を庭に放ったのは6月でまだ小さな幼虫だった。その後は成虫になる直前に雌だけ放っている。
もし庭で鳴けばあの小さな幼虫が育って鳴いたことが分かる算段だった。
ところが飼育中の鈴虫が鳴き始めてもなかなか庭では鳴かなかった。やっぱり全滅してしまったのかな、と思った頃、
やっと鳴いた。しかも数匹同時に鳴き始めた。それは少し気温の下がった日の夜だった。
実は飼育中の鈴虫も帰宅した時点では鳴いていなかった。帰宅して部屋の冷房を入れ暫くして鳴き始めるのだった。
と言うことは、温度が高すぎると鳴かないのではないか?
庭では今も鳴いているから去年より好成績だ。しかし鳴く時間が日によって違う。この数日は夜半頃に鳴き始める。
気温はとっくに下がっているのに何故今頃? そう思って外に出てみると空気が湿っているのを感じることが多い。
この数日間は晴天が続いて雨が降らなかったから、日没後もしばらくは乾燥した状態だった。
気温の低下に伴い相対湿度が上がり、また植物からの蒸散は絶対湿度自体も上げる。それには少々時間が掛かる。
独特の柔らかい空気、「高原の夜の空気」と言ったら分かるだろうか。
鈴虫の声に外に出てみたら、いつの間にか空気が変わっていて、その潤いのある空気に満たされていた、と言う訳だ。
そこで考えて見た。
鈴虫は乾燥した空気が苦手なのかもしれない。
乾燥に弱いことは元々承知していた。そもそもコオロギ類は乾燥に弱い。草木の枝葉に棲むキリギリス類と比べて、
地面を歩くコオロギ類が湿り気を喜ぶのは当然と言えば当然で、乾いた状態では1日も保たない。
鈴虫もご多分に漏れず乾燥に弱く、特に雄は身体に蓄えた水分も少ないので簡単に干からびてしまう。
それを知っていたのは飼育した経験による。特に土を入れずに飼育していると乾燥で死なせることが大変多いのだ。
けれども戸外で乾燥の影響を受けていると感じたのは、今回が初めてのことだった。
ホタル池の水は有害か?
学内のホタル池を今後どうするか? とりあえずそのままにしていたが、鈴虫にとって懸念がないわけではなかった。
庭ではヌマガエルが大発生したのでカエルトラップを仕掛けた訳で、それならホタル池もない方が良いかも知れない。
カエルが増える原因だから。けれども実際にはホタル池の周りではカエルが少ない。
自宅の庭に多いのは何故か? 池も作ってメダカを泳がせているが、それよりも多分周辺に田圃が多いからだろう。
それでも去年は庭の鈴虫の方が長く鳴いていたのだから、ヌマガエルはほとんど脅威になっていない。
とは言うものの、幼虫期には脅威になる可能性が高いと考えて、庭ではひと冬かけて60-70ものトラップを仕掛けた。
それではホタル池はない方が良いのか? 多分不要とは思うが、カエル対策なら急がずとも...。
そこにある団体からホタル池使用の申し出があった。あの場所にカスミサンショウウオを放ちたいと言う話だった。
そもそもサンショウウオと言うとオオサンショウウオしか知らない人も多いと思う。
国内にはもっといろいろなサンショウウオが生息していて、その1つがカスミサンショウウオだ。
大きさも「これが同じ仲間か」と言うぐらい小さい。と言うよりも、オオサンショウウオの方が異常にデカイのだけれど。
それには当然ホタル池を維持しなければならない。
ところがホタル池の周りにもカエルトラップを仕掛けようという話が持ち上がっていて、それが懸念材料になった。
カエルだけでなくカスミサンショウウオも掛かってしまうのではないか? この話は春のことだった。
しかしサンショウウオが逃げ出さないための柵を作るという。ならば柵の外にトラップ、で解決だのに、
結局カエルトラップは仕掛けなかった。その理由は、上記の通りホタル池周囲ではカエルが少ないことが1点。
更に敢えて設置するとしたら、環境フォーラム環境教育班の作業を用意する、と言う意味合いが強かったところに、
スレート波板の大波設置を彼らの作業にしたことで、その必要性がなくなったこと、それが2点目だった。
ところがである。もしかしたら鈴虫はここ数日の乾燥程度でも活動を妨げられているかも知れない可能性が出てきた。
となるとホタル池は除去しない方が鈴虫のために良いかも知れない。
外敵の内でカエルは確かに鈴虫よりも乾燥に弱いのだが、一番危険だと感じているアシダカグモなどの蜘蛛類は、
鈴虫よりも乾燥に強いので、あの場所を乾燥させることは蜘蛛に対しては無意味で、むしろ鈴虫が先に参ってしまう。
一般に生物の環境を整備する際の優先順位は、まずその生物自身にとって快適な環境を整えることが先決で、
外敵に不快な環境とか、餌になる動植物に快適な環境は、それを損なわない範囲で考えるべき“付帯事項”なのだ。
そう言う微妙な状況の中での判断なので、元々ホタル池の除去には慎重さを必要としていた。
更に加えて今年の鳴き声の様子を考慮すると、ホタル池を除去することが、果たして鈴虫にプラスになるのかどうか、
逆にマイナスかも知れない。いよいよ分からなくなってきた。
いろいろ課題はあるものの、全体として去年より前進していて、学内のホタル池は去年の自宅庭のレベルに達した。
自宅庭の方はあと一歩で「自立して世代交代でる生存率」に届きそうな状況だ。一番厳しい幼虫期を複数生き延びた。
それが大きい。霧の先にうっすらと明かりが見えてきた、そんな感触を抱いている。
研究室トップ