今夏の昆虫たち   2015.10.1

今年の夏に飼っている(いた)昆虫の中で、種類が多くなったのはキリギリスの仲間だ。そのようになった理由は
「すずむしのおんがくかい」のためにその前日捕まえてきた鳴く虫たちを、半分くらいは逃がさずに
そのまま飼育していたからだ。
一方今年はオープンキャンパスが現学部としては終わり、キリギリス自体を捕まえてくることをしなかったので、
キリギリスは飼っていなかった。
因みに去年のオープンキャンパスで仕事した(鳴いた)キリギリスは、雌も含めて自宅隣の空き地に逃がした。
その子どもが今年の初夏に鳴き始めて、最初は「えっ、空耳か?」と思った。
それ以前に同じように逃がした時は、翌年に子孫が出てくるどころか、その年の内に近くの畑に移動して消えた。
多分農薬によって死んだのだろう。だから今年ここで子孫が鳴き始めようとは、にわかには信じられなかった。
結局その後の草刈りで今年の子供らも姿を消してしまったが。
【鳴く虫たち】 - 出番は「すずむしのおんがくかい」
さて「すずむしのおんがくかい」のために前日(20日)の夜に虫取りに行った。まずクツワムシは外せないと考えた。
大きくて子どもの目を引くし、「虫の声」の歌詞にも出てくるから。
そこで以前クツワムシを捕まえた場所に向かう。そこには近縁のタイワンクツワムシもいる。
両方狙ったが捕まえることができたのはただのクツワムシのみ。雄の緑(下写真左)と茶色が揃った。
去年は一匹だけだったのでこれでも良い方。雌も欲しければ昼間探した方が良いし、季節を下れば道に出てくる。
しかし八月後半の夜では元より雌は期待できない。

  
オナガササキリの雌(上写真右)も採れた。全般に小柄なササキリ類としては大きく、雌の産卵管はやたら長い。
どうやって産卵するのか興味があったので飼ってみたが、産卵行動を観察できないまま20日ほどで亡くなった。
ウマオイも鳴いていた。ウマオイも歌詞に出てくるのだが、すばしこくって捕まえられなかった。
カンタンも鳴いていたが、姿を見るところまでさえ行かなかった。松虫も同様、声はするが丈の高い草の中で無理。
エンマコオロギは庭で鳴いているので、2匹ほど捕まえて持って行った。
最後にカヤキリを狙ってみた。カヤキリはクツワムシと違って無名だが、実は鳴く虫の仲間では最も大きな身体。
草食性ながら身体が大きくて、草原では滅多に負けないので気性も荒い。
佐賀に来たばかりの頃にカヤキリを捕まえた場所に向かうが、声も聞くことができない。この場所は絶滅したのか?
代わりにアカテガニを拾った。雄の真っ赤な鋏がそそるから子ども向きと考えて、雄だけ連れ帰った。
当然、鈴虫そのものも飼育している中から、雄2匹、雌2匹を一時的に別の容器に移して、会場に持って行った。
それぞれの容器に種類と雌雄等の情報を記した紙を貼った。
エンマコオロギや鈴虫は共食いがあるので、餌など充分な環境にする必要があるが、一晩だけなので容器は1つ。
逆にクツワムシを2匹で別の容器に入れた。彼らは草食性だが、共食いが発生したことがある。
幼虫では友達のお尻が口元にあると囓ってしまうことがある。成虫では友達の翅を囓る。
当然お尻を囓られたら生きていけない。ところが歩いて逃げる。それに歩調を合わせてついていって囓り続けた。
彼らは草の葉と仲間の身体の区別がはっきりしないようだ。そして逃げる方も危機感が足りない。
これらの内でクツワムシの茶色とエンマコオロギは「すずむしのおんがくかい」が終わったらすぐに庭に放った。
もちろんエンマコオロギは基からそこにいたのだから生きていけるはずだ。
クツワムシはどうも定着しない。数年前に試したとき暫くは声がしたが、半月ほどして急に減り始めて全滅した。
猫を疑っている。捕まえやすくて大きく食べ応えがあるのを覚えたのではないか?
それならもう忘れたかと期待したが、今年も声がしたのは2-3日だった。もし猫なら生息地では何故大丈夫なのか?
生息地は大概草深い場所で、クズなどが茂っていることが多い。脚に引っかかって猫には歩き難いからだろうか?
今度は自宅から少し離れた葛の茂みに放ってみようと考えている。
「すずむしのおんがくかい」の少し前に庭でサトクダマキモドキの雌を見かけたが、茂みの中で捕まえられなかった。
終わった後で再び見つけて今度は捕まえることができた。本当は当日見せられた方が良かったのだが。
クダマキとはクツワムシのことで、クツワムシに似ていると言う意味で「クダマキモドキ」、
更にそのクダマキモドキには沢山の種類がいて、○○クダマキモドキという名前の虫が10種類ほどにもなる。
こんなことになるんだったら、最初に△△モドキなんて名付けなければ良かったのだが、今更どうしようもない。
クダマキモドキ類は樹上生活者でそんなに頻繁にお目にかかれる虫ではない。どれも全身緑色で美しい。
中でもサトクダマキモドキはパステル調のような緑色で、本当に綺麗だ。平地にいるので、
有難味はヤマクダマキモドキに劣る印象もあるが、公平に見て色ではサトクダマキモドキに軍配が上がると思う。
雌雄の身体のサイズが大幅に異なるのもサトクダマキモドキの特徴だ。雌よりも雄の方が派手な蛍光グリーンだが、
雌の方が大きくて迫力ある。この体重で翅を使って飛ぶのだから凄い。

  
上の写真のサトクダマキモドキがちゃんと見えるだろうか? イヌビワの葉の緑に完全に溶け込んでしまっている。
目一杯周囲をカットして見やすくしてあるが。左が頭、目玉が黄色でその真ん中だけ黒いので幾らか目立つ。
彼女はこの撮影の後、そのまま庭に戻してあげた。
(追補2015.10.5) 先日彼女に再会した。オオバヤシャブシの剪定をしていたら、切った枝にしがみついていた。
翅の先端の変色ですぐに彼女と分かる。逃げようとしないので、頭をグリグリ撫でてみたが、なすがまま。
枝ごと地面に落として拾い上げたらやっと逃げていった。昼間活動しないとは言え、余程深い眠りにあったのか?
逆に最初出会ったとき逃げたのは、昼間なのに目覚めていたと言うことか?
翅の長い昆虫を飼育する場合、飼育容器の内面に翅の先端が擦れて、日数が経る内にボロボロになってしまう。
そこで長らく大学に置いてあった球形虫籠(上写真右)を家に持ち帰って、それに彼女を入れた。
もちろん球形の虫籠など売られていないから自作だ。料理用のザルを2つ組み合わせて、内側を球形にしている。
残念ながら既に少し翅の先が変色していたが、まだ擦り切れてはいなかった。
【カニ、そしてカマキリ】 - 虫でも飼い主になつく?
アカテガニの雄も飼育し続けているが、去年から飼育を続けている別のカニがいる。何ガニか、同定できていない。
多分アカテガニの子どもだと思っているが、それにしてはこの大きさで一年間に一度しか脱皮しなくて良いのか?
まだサワガニの成体よりも小さい。
以前亀が飼い主に懐くことを記した。懐くと言っても餌をねだる程度だが、それならもしかしてカニでも懐くのでは?
そこでこの小さいカニに対して、亀と同様に餌を千枚通しの先端に刺した状態で、目の前に差し出して見た。
それが初夏の頃のことで、今もこの給餌方法を継続している。
予想通り徐々に覚えてきて、千枚通しに飛びかかるようになって来た。現状では餌をねだるほどにはなっていない。
容器を開けると、逃げるべきか餌を待つべきか迷うようだ。前後に小さく動きながら様子を伺って、
どうやら餌らしいと判断すると電光石火の早業で千枚通しを“カニの鋏”で挟む(下写真左)。
餌はもっと手前にあるのだが、どうも千枚通しの方を挟んでしまい、そのまま引っ張っるものだから、
餌が落ちてしまうことが少なくない。そうなると餌がどこに行ったか見失ってしまう(下写真右)。
それだから益々素早く捕まえる必要があると思ってしまうのかも知れない。現在はその辺で進歩が止まっている。
亀は近くで仕事をしているときでもこちらの方に泳いでこようとする訳だから、それと比べたらまだまだではあるが、
まあとにかく懐く方向に、自らの行動様式を変えてくれたのである。

  
亀が懐くには子亀の内から飼育する必要があった。だからカニでも同じかも知れないと考え、試して見ることにした。
そこで「すずむしのおんがくかい」の後も、大きな雄のアカテガニは逃がさずに飼うことにしたのだ。
まだ日数が浅いので、容器を開けたら逃げる行動パターンを矯正する段階で、開けたらすぐに餌を彼の周りに落とす。
それを繰り返して容器の蓋が開くことを恐れず、「餌かも知れない」と反応するようになったら次の段階だ。
● 「元祖カマキリ」はどこに?
カマキリは何を考えているのか分からないような所がある。首が動くし、物を手に挟んで持ち上げることもできる。
これらは人間に近いし、人間が頭脳を発達させた原因と共通する部分もある。
つまり物を手に取って操作できたために、進化の過程で道具を使うことを学び、終いには道具を作るまでになった。
だとするならカマキリは他の昆虫より賢いのだろうか? そう言う実感はないが...。
子どもの頃に初めてカマキリに接したのは、実家の庭だった。父だったかに「それはカマキリだよ」と教えて貰った。
東京の住宅地の真ん中で、カマキリ自体が非常に少ない環境だった。
飼ってみようとしたが、東京は生き餌が手に入りにくい環境だし世話もお粗末。すぐに死なせてしまった。
その後小学校に通うようになるとハラビロカマキリを時々捕まえるようになった。
庭にはコカマキリが時々いて、捕まえていた。ところが最初に庭で見たカマキリは絶えて出てこない。
小学校も高学年になると図鑑で調べて見るのだが、図鑑にも最初に見たカマキリに該当するカマキリが載っていない。
庭でももう出てこないし、お尋ね昆虫になってしまった。
ウスバカマキリは確かに似ている。しかしそもそも東京では見かけないカマキリなのだ。更に実物を見ても違う印象。
佐賀に来てから長崎に出向いて、人生初のウスバカマキリを捕まえたが、どうも我が「元祖カマキリ」とは違うと感じた。
けれども他に候補がないので、ウスバカマキリがどういう訳か庭にいたと思うことにしていた。
この疑問が解けたのは10年ほど前のことだ。答えはコカマキリの緑色型。コカマキリは通常茶色い身体をしている。
ところが稀に緑色の個体が出現する。図鑑では知っていた知識だが、その実物を見たことで理解した。
全身に衝撃が走る。
何という偶然か! 珍しい筈のコカマキリの緑色型が私にとっての人生初のカマキリ、「元祖カマキリ」だったのだ。
コカマキリなら実家に毎年現れていた訳で、話が繋がってくる。ただ体色が通常の茶色の者しか出てこなかったから、
別のカマキリだと認識して探し続けることになったのだ。突然決着がついた瞬間だった。
佐賀に来てからも、樹木を育てたくて今の庭付き戸建てに移るまでは見なかったから、本当に長い期間だった。
ところが今はほぼ毎年お目にかかれている。最初に引っ越した年に、全身緑色の個体と翅だけ赤色の緑色型を見た。
次の年も現れた。庭だけでなく近所でも時々見る。
そこで考えて見た。あんなに長期に亘って見なかった緑色型の出現頻度が、この場所では余りにも多すぎないだろうか?
環境だろうか? あるいは遺伝だろうか? もし遺伝的に緑になりやすい系統が偶々この近所で存続しているとしたら?
そこでコカマキリの緑色型を捕まえたら飼育して、卵嚢を翌年の春まで保管することにした。
本当は完全に飼育しないと実験にならないのだが、当然実験なら対象区も必要なわけで、そこまで余裕はなかったので、
冬に卵嚢が外敵の餌食なるのを防ぐところまでやって、もし今まで見たことのない雄の緑色型が現れたら次を考えよう。
実は緑色型が見られるのは雌ばかりなのだ。
こうして毎年庭で作業をしているときに、コカマキリの緑色型を見つけると、捕まえて飼育を開始して、卵を産ませる。
本人は「外敵に捕らえられた」と思うだろうが、実際には、さながら危険な野外から匿っているようなものだ。
今のところ雄の緑色は出てこないが、3-4年前に雄なのに淡褐色の個体を見つけた。通常雄は黒褐色で、雌が淡褐色。
稀に雌でも黒褐色になる。珍しい淡褐色の雄は、前年の緑色型雌の血を引くのではないかと推測した。
卵を産ませるには雄が必要なのは言うまでもない。しかし雄を見つけてくるのが結構大変だ。簡単に捕れる虫ではなく、
特に狙って採れると言うより何かの拍子に採れるような虫だ。おまけに雄はひ弱で、
飼っていると簡単に死んでしまったりする。その上緑色型に近いと思われる淡褐色の雄に拘るとなると絶望的に困難だ。
仕方なく黒褐色でも幾分色の淡い雄で手を打つことにしている。
● 今年のコカマキリ
さて今年は終齢幼虫で緑色型を捕まえた。成虫になる前から飼育すると完全な緑を保つのが難しいが、飼うことにした。
それが羽化して既に一ヶ月あまり経つが、掛け合わせるための雄はと言うと、
まず最初の雄が採れたのが早すぎてすぐ死んでしまった。次の雄は濃い黒褐色。どちらも家の玄関先で採れた。
できれば色の淡い雄が欲しいが、今いるのはその逆だ。しかし雄を探しているうちに雌が交尾期を逃しては意味がない。
今いる黒褐色の雄を飼育しながら探していると、その間にこの雄は死んでしまうかも知れない。二日間探してダメなら
諦めることに決めて探したが、やはり見つからなかった。

  
            こちらを見上げている。    羽化直後は翅も緑だった。
仕方なく交配するが、どうも様子がおかしい。容器に入れて先に気づいたのは雄。しかし間もなく雌も雄に気づいた。
全く雄は動かないのに、まるで雄の視線を感じたかのような反応だった。
雌が後ろ向きにならないと雄は背中に乗りにくい。雌はゆっくり雄の前を通って尻を向けようとするが、天井が滑って
思うようにいかない。足が滑った拍子に雄が驚いて雌を攻撃。絡み合って落下しながら雌も反撃。
これはダメかなと思ったが、2日後に交尾しているのを確認できた。刺激しないようにそのままにして、
翌日離れた雄を庭に戻した。ところが交尾後も、いつもと違っていた。雌の腹端が開いた状態でなかなか閉じず、
その内には精子嚢がはみ出してきた。それで腹端は閉じたが精子嚢は残る。そもそも精子嚢を見たのは初めてだ。
仮に出てくるのが正常だとしても、普段目撃しないと言うことは、短時間で落下するのでないとおかしい。
とうとう雌を容器から出して手で摘んで精子嚢を取ってしまった。精子嚢は尾角の先に付いているだけで簡単に外れた。
いつもと様子が違うので交尾が成立したか心配だった。
間もなく出張だったのだが、もしコカマキリの雄を見つけたら、捕まえて持ち帰られるように常に容器を持ち歩いた。
しかし次に捕まえたのは出張から帰った後、またしても家の玄関先だ。
自宅では散々探しているのに...。雄を探して頑張ってダメだった庭に面した玄関を、何故こう何匹も訪れるのか?
今度は標準的な程度の黒褐色の雄だった。再び交配してみたら、雄が怖がって逃げようとしていた。
2匹の雄が妙な行動を取る、と言うことはまさかこの娘はコカマキリの雄から見て、仲間の雌に見えないのだろうか?
確かに緑色はコカマキリとしては稀だ。しかも彼女は羽根が赤み帯びている。自然界では一番稀な配色だ。
しかしそれ以上に危険性があるとしたら、飼育による彼女の行動の変化の方だろう。この点は後で述べる。
不安が湧き上げって来る。しかしその翌日交尾していた。再びそっとして置いて、交尾が終わってから雄を逃がした。
今度は精子嚢が尻から出てくることはなかった。

  
            真っ黒な雄(2番目)      普通程度に黒褐色の雄(3番目)
その後2日と経たずに彼女は卵を産んだ。やはり最初の交尾が不発で、卵を産まずに交尾を待っていたのかなあ...。
すぐまた今度は帰省(施設の親訪問)で、その間世話ができないので、餌を普段よりハイペースで食べさせた。
しかしそう速く消化しきれるものではないわけで、食べる量には限界がある。一昨日帰省から戻って更に食べさせたが、
再び腹がぱんぱんに膨らむにはまだもう少し食べ足りない。
● カマキリも懐く?
彼女の行動は不思議に満ちている。コカマキリは概してそうなのだが、飼い始めると私から逃げることを止めてしまう。
その度合が今年の子は特に激しいような気がする。飼育容器に近づくと振り向いて、覗き込んでもこっちを見続けている。
暫く見て何も無ければ正面に向き直る。私の何を観察しているのだろうか?
時々餌になる昆虫等を持ってくることもある。その場合は容器に手を触れるから刺激を与えることになるが、
前に向き直るだけで逃げる態勢を取らない。
更に驚くのは、容器を掃除するために一旦彼女を外に出すときだ。手でつまみ上げるが、それでも逃げない。
それどころか“気をつけの姿勢”を取る。もちろんカマキリに“気をつけの姿勢”が定義されているわけでも何でもなく、
見た目の印象からそう呼んでみた。
具体的には、両方のカマ(前肢)を揃えて畳んで身体(前胸部)に沿わせ、そのカマと一緒に上体を起こして、軽く顎を引く。
これはまるで私がつまみ上げるのを手伝っているかのような姿勢だ。
コカマキリでは力がないからさほど問題ではないが、カマキリを摘んだら反撃されて、カマの棘が手の指に刺さって痛い。
カマを抑えるのは、2本あるから難しく、仮に2本同時に摘むことができても、今度は口の牙で噛んでくる。
これらの反撃を全て封じ込めるには、前胸部と2本のカマ、合計3本をひとまとめにして摘むことだが、
一度にそのような捕まえ方をするのは無理なのだ。決してカマを前胸部に揃えてくれないから、良くても2本まで、
普通は前胸1本しか抑えることができない。一旦捕まえてから指を刺されつつ、もう一方の手でカマを押さえて畳ませる。
そう言う段取りにならざるを得ないのが普通なのだ。
ところが彼女ときたらどうだ。自分から武器を畳んで揃え、しかも摘みやすいように上体を起こして、待っていてくれる。
どういう風の吹き回しでこんなにも協力的なんだろうか?
今年は珍しく黒褐色の雌も捕まえたので、数日後に(ここに載せるために)写真を撮った上で、別の場所に運んで逃がした。
その雌(下写真)も最初は捕まえられまいと逃げたが、逃がしたときはもう従順だった。

  
これを「懐く」と表現して良いかどうかはよく分からない。けれども飼育に伴って行動を変化させているのは確かだ。
特に飼い主を警戒しなくなるのは懐くことの最初のステップのような気がする。やはり「懐く」と言って良いのかも知れない。
結局「懐く」とはどういうことを意味するのだろうか?
所謂“専門家”に聞けば「懐かない」と答えそうな気がする。しかしこう言うのは、「懐かない」という答えが先にあって、
それに合わせて「懐く」の定義を決めているような内実があって、学問と言うより何か宗教のような所がある。
そもそも「懐く」と言う概念自体が学問で問う必要のある概念とは捉えにくく、「故に答えない」と言う専門家もいそうだ。
だからこういうときは「懐いた」と素直に喜ぶ方が、健全と言うものではあるまいか。
このようなコカマキリの行動は「賢い」と言えるかも知れない。だとするなら、最初に記した疑問の答えになるかも知れない。
「カマキリの身体は人間と同じように動くが、それなら賢い筈ではないか?」「確かにそうだ」と。
けれどもこれはコカマキリに限定されたことのようなのだ。他のもっと大きなカマキリは、飼育していても行動の変化を
余り感じられない。そうするとカマキリの身体の構造と結びつけて議論することはできなくなってしまう。
● 他のカマキリと比べて
自宅の庭に一番多いのはチョウセンカマキリだ。次はハラビロカマキリ、次いでコカマキリ、ごく稀にオオカマキリ。
ウスバカマキリとかヒナカマキリとか、まだ生涯で1-2度しか見ていないカマキリ類は自宅には出現しない。
「日々雑感」の目次ページに掲げたのはヒメカマキリ(ヒナカマキリと一字違い)で、これは佐賀市内で見つけたが、
それは佐賀に来て間もない時期の一度きりで、その後見かけない。偶々それを撮影してあった。
自宅に現れないカマキリは除外するとして、4種のカマキリを比較すると、一番身体が小さくて弱いのはコカマキリだ。
どうして彼らはここで生きていけるのだろうかと不思議に思っている。
オオカマキリとチョウセンカマキリは共に大きくスタイルも似ていて、どうして共存できるのか興味が持たれている。
生態学の用語で「ニッチ」と言うが、生物が生きていく上で必要な環境の総体で、気候などの物理的要因に加えて、
他の生物との関係も含む。1つにニッチには1種しか生息できない、と言う法則がある。
オオカマキリとチョウセンカマキリは余りにも似ていて、そのためニッチが重なってしまわないか、と心配になる訳だ。
いろいろ調査もされていて、生息する環境が微妙に違うことも分かっている。
オオカマキリは概して草と樹木が混在する林縁環境に現れ、一方のチョウセンカマキリは純然たる草原に出てくる。
あるいは、平地ではチョウセンカマキリの場合が多く、丘陵地に行くとオオカマキリに入れ替わる、と言う感じ。
以前どこかのHPでみた調査ではご丁寧に、オオカマキリを全個体除去してチョウセンカマキリだけにする等して
経過観察していた。更に同じ場所で逆にチョウセンカマキリだけにした場合とか、両者とも残した場合とかも調べる。
別の場所でも同様に調べる。その結果、両者が直接対決するとオオカマキリが勝ったそうだ。
原因は孵化時期の違いで、幼虫期には常にオオカマキリの方が身体が大きいとのこと。
ところが元々チョウセンカマキリだけの場所のチョウセンカマキリを除去してオオカマキリを放っても、
オオカマキリは消えてしまい、逆にオオカマキリだけの場所でオオカマキリが除去されればチョウセンカマキリは棲める。
と言うような話だった。他の見解に導かれた調査結果もあるが、話を戻そう。
庭でオオカマキリは本当に稀にしか出てこないので、基本はチョウセンカマキリの環境なのだろう。樹木はあるんだが...。
一昨年鈴虫を捕まえた場所はオオカマキリなので、庭もオオカマキリが増える方向に環境を整えるべきかも知れない。
まあどちらも鈴虫にとっては外敵なのだけれども。
次にハラビロカマキリは基本樹木の上で生活している。だからチョウセンカマキリとはあまり鉢合わせしないはずだ。
コカマキリの居場所は有るような無いような...。敢えて言えば樹木の下の土の上が彼らの占有地だろうか。
しかし樹木に覆われた暗がりでは見かけず、草取りをして草丈を低く維持している場所で、割と日の当たる環境にいる。
草取りを止めればすぐにチョウセンカマキリだし、事実そこにはチョウセンカマキリも時々いるのだ。
幼虫期の身体の大きさはチョウセンカマキリと同程度だ。その段階では互角かも知れないが、成虫期はそうは行かない。
一方的にやられるだけ、事実コカマキリがチョウセンカマキリの餌食になっているのを見る事がある。
どう見ても直接対決ではチョウセンカマキリに分があるのに共存できる理由が、他にあるはずだ。
そこで、もしかしたらコカマキリの行動の「賢さ」のようなものが彼らの生き残り戦略なのかも知れない、と考えてみた。
上に記した話を読んでいて、読者は気づいたかも知れない。雌が雄を共食いする現象はコカマキリでは滅多に起きない。
それどころか雌が雄に交尾を誘うような動きをすることが多い。
飼育環境への高い順応性も、野外でその場所の状況に合わせて行動を変える能力を発揮したものと考えることができ、
それなら生存に有利な能力に違いない。これらの能力を「賢さ」と表現するなら、賢さが彼らの生存戦略の可能性がある。
解明するにはほど遠いが、仮説の一つとして心に留めて考え続けている。


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