飼育している小動物達   2014.4.10

去年タガメについて書いてから随分と月日が経ってしまった。
タガメもまだ生きている。雄も雌も二度目の冬越しがそろそろ終わる。餌を食べ始めれば冬越し成功と言えよう。
子供も大勢生まれたが大人になって生きているのは2匹だけだ。少し身体全体が小さく、体色は目立って淡い。
育て方の問題だろうが、初めてのことなので良く分からない。結局タガメは現在合計4匹だ。

    
【ハムスター】 - 住居が先で住人は後から...
経緯は何年も前に遡る。近くの山でネズミを捕まえた。林道を運転していて目に入った朴木を見ようと降りた。
すると足下をチョロチョロと走る動物が私の車の下に向かった。屈んで覗くと鼠だった。
そのまま発車する踏みつけてしまう危険があるので、枯れ草の茎で追い出そうとするがその場から動こうとしない。
仕方なく木の枝で掻き出すようにして引きずり出した。
それで車の横に引き出されたのだが、それでもその場に止まろうとして脚を踏ん張る。走って逃げないのは何故?
「こいつ手づかみで捕まえられないか」と掴んでみたらあっさり掌の中に。
そこで帰り道では、鼠を飼育するにはどうしたら良いかと考えて、ホームセンターに寄って飼育用品を探した。
一番鼠に近い動物はハムスターであると判断してハムスターの飼育用品一式を購入した。
家に着いたらそれをセットして鼠を入れてみたが、既に疲れている様子。
もしかしたらあんなに簡単に捕まえられてしまった時点で、何か身体に問題を抱えている鼠だった可能性もある。
餌よりも水を飲ませる方が先決と考えて、容器に入れた水を飲ませようとするが、飲んでいるのか良く分からない。
因みに水を飲むための道具も備わっていたが、そこに口を伸ばす訓練をする前に力尽きてしまいそうだ。
そうして翌日には死んでしまい、後にはハムスターの飼育用品一式が新品同様のまま残った。さてどうしたものか?
そのまま何年か経過したが、時々思い出して小型の齧歯類の飼育方法を調べていた。
ハムスターも良いけど国内産の動物でペットになっているのはいないかな、と考えて一度はシマリスに決めた。
そこで近辺のペットショップをまわって探したが、シマリスは売られていなかった。
通販でも良いけど購入後もお世話になる可能性を考えると、できれば地元ショップが良いと躊躇して年月が過ぎた。
とうとう観念してハムスターを飼うことにした。シマリスより初心者向きと言うし、まず最初はハムスターで経験して、
その次にシマリスを飼う手順も良いかも知れない。
「男の子と女の子、どちらにしますか?」と。あー、雄と雌じゃないのね! だが驚きはそれだけで終わらなかった。
掌の上に載せると逃げずにそのまま毛繕いを始めるではないですか! 完全に野生を失っているのだ。
因みに「男の子」にした。自分が男の子だから、と言うよりも人間の男児を見ていて「可愛い」から。
別に女児が可愛くないわけではないのだけれど、男児の特に行動が可愛いと常々感じる。
逆に言うとハムスターを選ぶのにまともな判断基準を持ち合わせていない、全くの素人なのだ。
更に「どの子にするか?」と。しゃーない、店員の捕まえようとする手を見上げた鼻先が一番高く上がった君に決めた。
それは去年の初夏の頃のことだった。彼は今、私の自宅にいる。
可愛いと言えば自分も学生から時々言われるが、どこを見てそう言われているのか、今ひとつ理解できないでいる。
一人で居るときは写真のハムスターのように丸まっていることもあるけど、人前では気を緩めたりしない筈なのに...。
しかし男子学生の何でもない言動を可愛いと感じることもあるので、そんなものかも知れないとも思う。
以前ある女子学生と交際中の男子学生を可愛いと感じて、女子学生の気持ちに共感を覚えたことがある。
彼は元々頭脳優秀だった。あるとき勉強で英文を読んでいて意味が理解できたとき、少年のようにはしゃいで喜んだ。
彼女はまだ理解できず置いてけぼりなのだけど、楽しそうに彼の顔を見上げていた。
原産地がチェコだという。どうも自然分布という意味ではなく、この個体が出生したのがチェコと言う意味らしい。
その後一ヶ月ほどの間に、乳離れして日本まで運ばれてきて店頭に出されていたというのだから驚きだ。
室温を20-25度に保つように言われた。「変だなあ」と思う。と言うのはそう言う条件の地域は世界にほとんどない。
具体的には低緯度地域の標高の高い森林がその条件を満たす。そんな競争の激しい場所で生息していたのだろうか?
本来は土に穴を掘るそうなので、昼夜の温度差を問題にしないとすれば森林でなくても良いが、...。
調べてみると自然分布はそんなに低緯度でもない。そこで夏は28-30度に設定して少しは冷やしたが、
冬は部屋の暖房はせずに飼育容器の下半分にアンカを挟んだ。暖かい床と寒い床が自分で選べると言う仕掛けだ。
それで暖かい方にいることが多かったが、寒い日でも平気で回し車を回しに出てくる。
行動を観察していると温度で居場所を決めているかどうかさえ疑わしい。暖かい床の上に回し車が設置されているが、
元々回し車の下の空間が彼のお気に入りだった。

    
★災難 先日のこと、何かいつもと違う音がするので振り返ると、飼育容器の側面に固定されてもがいていた。
回し車だけでは変化に乏しいので、ハシゴを作って、高いところに設置した餌台に登るようにあつらえていた。
そのハシゴが割り箸で出来ているので囓ってしまう。
そこで飼育容器の四隅にアイスキャンディーのスティックを差し込んでおいて、それを囓らせていた。
他にもいろいろ試したがハシゴを囓らせない代用品は難しく、やっとこの方法でハシゴを囓らなくなっていた。
そのスティックと側面の金網の間に挟まって動けないのだ、と最初は思った。
苦労してスティックを金網から取り外してあげたが、まだ側面の金網に固定されて宙吊りになったままだった。
後脚が金網の外に出てからもう一度隣の隙間から中に入って、更に足の先が金網に引っかかっていた。
本人もアイスキャンディーのスティックを気にしていたし、私もそちらを原因と見間違えてまず最初に取り除いたが、
実際には金網だけで脚が固定されてしまっていたのだった。
外してあげると少し出血していた。軽くびっこを引いている。水を与えると暫く飲んでいたが、餌は食べる元気がない。
ヒマワリの種が大好きなはずなのに、種の殻を食い破る力がなく、暫く囓って諦めてしまった。殻を割ってあげても駄目。
だから殻を剥いてあげたのだけど、こんなことは初めてだった。
その後びっこも直って、餌もほぼ以前同様に食べるようになったが、食べたがる餌の種類に変化がある。
表情にも何だかまだ少し元気がないような気がする。特に左目なんだけど、半分しか開かずに出てくることが多い。
眠いときは元からそんな感じだったけど、左目はその後、更に悪化して目の周囲の体毛が抜け始めた。
これはいよいよ動物病院か、と思ったが、連れて行く時間が取れないままここ数日は回復してきた。
昆虫などに病院がないのは「寿命が短くて治療期間中に天寿を全うしてしまうから」と解釈しているのだが、
ハムスターの寿命は2-3年と言うから、一部の寿命の長い昆虫と同程度でしかない。
それでも哺乳類だから、犬猫同様の方法で治療ができる。病院があるのは何か“棚ぼた”みたいなものかも知れない。
それにしても脚の怪我が目に来るのはどうも理解できない。偶然別の病気が重なったのだろうか?
今もヒマワリの種は殻を食い破ることは出来ない。回し車を回す時間は長くなったが、回転速度は以前に届かない。
痩せて毛並みが乱れていたのが、ここ数日で回復してきた。ただしそれは私が狙って太らせようとしているのが大きい。
餌を水でふやかせて食べやすくすることで、食べる量を増やしているのだ。体力を付けさせるために。
【ヒラタクワガタ】 - 自宅に現る
ハムスターと前後してヒラタクワガタも飼い始めた。自宅の駐車場にいるところを見つけて拾った。小さめの雄だ。
捕まえたのは自宅だったけれど、今は研究室に連れて来て飼っている。
以前にも小さめのヒラタクワガタを自宅で捕まえたことがあるから、この周辺に生息しているのだろう。
自宅ではカブトムシが毎年出てくるので、飼育用品は全て揃っている。
お手製の餌台も作ってある。普通売られている餌入れは雄の口が入らなくて困るので、ごく浅いく窪みにしてある。
その窪みに流動タイプの餌を注ぎ入れる。窪みの周囲も洗浄しやすい表面ながら凸凹もあって足の爪が掛かる構造だ。
プラスチック成形すれば簡単なのに、そう言うものが売られていない。だから作ったのだ。
木片に窪みを彫った後、編み目状の布を貼り付けてその上から何層もウレタン塗装してある。
更にそれを数センチの高さに掲げるようにしてあるが、特に塗装の部分で甚だしく手間暇が掛かる。
カブトムシがあんまり沢山(最高記録は一夏で数百にもなった)出てくるから、この餌台をいくつも作る羽目になった。
もう一度言うけど、どうして市販の餌入れの形状は、雌でないと口が届かないような深い窪みに作ってあるのだろうか?
ゼリーの形に合わせた結果、昆虫の身体には合っていない。欠陥品に近い設計だと思う。

   
このヒラタクワガタの身体には原因不明の凹みがある。最初はそこに泥が詰まっていた。それを洗って取り除いた。
別のクワガタと喧嘩したときに、大顎の内側に並ぶ棘によって穴を空けられたのだと、まずは理解した。
だから泥を除去すると傷が出てくると考えて、彼の身体まで削ってしまわないように、少しずつ丁寧に歯ブラシを当てた。
ところが泥の下は傷ではなく、ちゃんとクチクラで出来た凹みになっていた。そして少し毛が生えている。
と言う事は羽化したときから元々この凹みがあったことになる。何が原因でそんなことが起きるのか、良く分からない。
あるいは蛹の時に穴が空いたらそうなるかも知れないが、...。
小さいとは言っても私が何かするとちゃんと大顎を上げて威嚇する。餌を入れようとしても窪みの上を占拠して邪魔だ。
退かせるにはお尻の辺りを突くのが良い。すると敵が後から攻撃してきたと思って、身体の向きを反転させる。
それで必ずこちらの思惑通りに動くとは限らないが、何度かやる内にはもと居た場所から移動して、窪みから外れる。
もちろん捕まえて強引に引っぺがすこともできるが、繰り返すと足の爪が痛むから御法度だ。
知る人も多いと思うが、ヒラタクワガタは人気のオオクワガタとも近縁種で、どちらも昆虫としてはかなり長生きする。
だからこいつも去年の夏から飼育してまだ生きているのだ。もう一回冬を越すかも知れない。
クワガタ好きの大人はオオクワガタの素晴らしさを語って止まるところを知らない。
それは別に良いのだけど、他のクワガタ、例えばノコギリクワガタなどと比べられると少々閉口することがある。
ノコギリクワガタも私は嫌いではない。オオクワガタなどと比べて長所・短所あるよねと言う感覚だ。
ノコギリクワガタの魅力は身体に対する大顎の比率が大きいこと。一方オオクワガタなどは長生きする点に魅力を感じる。
小さいから人気があまり出ないが、コクワガタも近縁種でやはり長生きする。
このコクワガタを大学生の時に長期間飼育した。その年の夏、私は北国に多いミヤマクワガタを捕まえようと考えて、
札幌の町を外れたところにある森林公園に通った。当時まだ学生だったので自転車で毎晩深夜に下宿を出て朝戻る。
前の日にコクワガタと思しき雌のクワガタを拾っていたが、最初からあまり元気がなかった。
翌日元気な雄を捕まえて同じ容器に入れると、死にかけの雌を繰り返し大顎で挟み始めた。強くではなく優しく挟む。
その様子は「おい、どうしたんだ。しっかりしろ!」と言う感じだった。無情にも彼に雌の命をつなぎ止める力はないのだが。
彼がその後長生きして、札幌と東京を何度も往復した。私にとって“思い出のクワガタ”になった。
【クサガメ】 - 亀の名前は皆「ゴロウ」
長生きの一番手はやっぱり亀だ。もう5年以上になる亀が2匹居る。佐賀に赴任してきた翌年に拾った亀も長く生きた。
その後もう一度飼いたいと思ってクリークにいるアカミミガメ(ミドリガメの成体)を捕まえた。
アカミミガメは外来種だし、人間に懐きやすいのはクサガメだから、本当はクサガメが欲しかった。
けれどもクサガメは陸でほとんどの時間を過ごすため、クリークを覗いて見つけることは滅多にない。
一方道路で車に挽きつぶされている亀のほとんどがクサガメで、アカミミガメが交通事故に遭うことは滅多にない。
アカミミガメによって在来種の亀が圧迫されていると言うが、イシガメはともかく、クサガメは生活圏が違っているので、
少なくなっている原因は人間の作った道路であろう。交通事故に加えて、烏も問題だ。
烏は亀を食べる能力を持ち合わせている。まず拾って空高く運び、舗装道路に落とす。衝撃で割れた甲羅の中を食べる。
アカミミガメのように水の中にいたのでは烏も近づけないが、道路に出て来るクサガメは、仮に交通事故に遭わなくても、
烏にしてみれば「自分から俎板に乗ってきた獲物」なのだ。
そんなわけでクサガメは死体しか見ない。仕方なくアカミミガメを捕まえたら、その年に何故かクサガメを拾うことになった。
暫くの間は一緒に飼っていた。けれども大きな亀は小さな亀をいじめることがある。クサガメは孵化後間もない子供。
どうも大きなアカミミガメが小さなクサガメをいじめてしまうので、クサガメだけにした。
その2年後に今度はクサガメの雌を拾った。その雌は大人だったので私に懐こうとしなかったが卵を産んだ。
雄がいないので無精卵の可能性もあったが、孵してみることにした。それが孵化したので今も育てている、と言う訳だ。
こうして今はクサガメが2匹いるが、あれ以来クサガメを拾わないからまた不思議。
今は2匹別々の容器で飼っているが、将来的には一緒にしたいと思っている。卵から孵したのは雄でほぼ確定だ。
尻尾にある肛門の位置で判別するということになっているのだけど、道で拾った方がどうも中間的で良く分からない。
もし雌ならつがえると期待している。2匹の体格差はほとんど感じられなくなっているが、両方ともまだ小さな子亀である。
番にできたとしても相当先のことになりそうだ。

    
ところでハムスターには定まった名前を付けていない。何か声を出すだろうから、それで名前を付けようと思っていた。
けれども彼は何も声を発しないのだ。正確に言うと一度だけ「キュッ」と鳴いたことがある。
身体が臭くなってしまったので、お湯で洗って拭いた。そのまま乾かしたのでは寒いだろうからと考えて、
彼を左手に持ったまま、右手で足下温風器をセットしていたとき、左手の小指に噛みついてきた。
痛いので右手で頭を押さえつけて左手の指の間に押し込んだとき、「キュッ」と鳴いた。要するにこれは断末魔の叫びだ。
噛みついて太刀打ちできる相手でないことを承知で噛みついたから、手ひどく反撃されることを覚悟していたのだろう。
そこで「キュータン」と呼んでみたりするが、「キュッ」は断末魔の叫びだからねえ...。
一方亀の名前は何匹居てもみんな「ゴロウ」、それ以外は考えられない。
中学生の時に班日記というのがあった。誰でも経験しているものなのだろうか? クラスに数人ずつの班が決めてあって、
その中で回して付ける日記だ。毎日班の中の誰かが持ち帰り、家で日記を付けてくる。
先生が見てコメントを書いてくれて、翌日は次の人が家に持ち帰って日記を付けてくるような仕組みになっていた。
ノートが一冊終わると新しいノートがあてがわれる。当時は班同士の間でそのノートの冊数を増やす競争が起こっていた。
頑固者の私はノートを隙間なく文字で埋めて、それでも班の友達に貢献するために、何とかして長い文章を書いた。
結局一年後には我が班はクラストップの冊数を達成したのだけれど、友達はと言うと文章ではなく絵でページを稼いでいた。
頑固者は私だけだったが、友達も私の好きにさせてくれていた。
班の友達の一人にいつも亀の絵を書いて、その日の飼育状況を記してくれる人がいた。その亀の名前が「ゴロー」だった。
冬のある日の班日記に、その「ゴロー」が死んでしまった、と記されていた。
けれどもその数年後の悲報は更に過酷なものだった。
中学を卒業した後、その友人は遠方の親戚を頼って親元を離れていたのだが、その時点では私はそれを知らなかった。
そこへ「その友人が亡くなった」と知らせがあった。熱でふらふらする身体で天体望遠鏡を見ようとして転落したと言う。
だから本当に突然のことだった。そこで彼の中学時代3学年のクラスメートが集まることになった。
彼の家族は父親と彼の2人だけだった。一人残された父親の悲しみようと言ったら、...。
涙で顔をくしゃくしゃにしながら全員に酒をついでまわっていた。高校1年生だから本当は酒はまだ飲めないのだけれど、
居合わせた中学の先生方も止めはしなかった。「飲まなくても良いよ」とは言っていたが。
お父さんも飲むことを強要するのではなく、飲んでいるかどうかとか、相手のことは眼中になかった。自分に精一杯なのだ。
自分が酔いつぶれて悲しみから一時でも逃れるための酌だった。
亀は意外に人なつっこいところがある。特に彼らは生後間もない時期から飼っているので、私の姿を見ると泳いで寄ってくる。
いよいよ餌をあげようと彼らの前に立つと、バチャバチャと音を立てて大騒ぎである。
水がはねるので迷惑なのだけど、それはどうも理解してくれないようである。「慌てなくても食べさせてあげるから...」
水でふやかせた餌を千枚通しに突き刺して差し出すと、ぱくりと噛みついて食べる。千枚通しの先が喉に刺さらないのか?
どうやら刺さらないようだ。こう言う方法だから餌をねだる習慣が付いたのである。
★脱走 先日1匹が脱走した。餌やりの後で蓋を閉め忘れたから外に出てしまった。2匹の容器の大きさが違って小さい方が。
このところ成長が止まったような感じがしている。まだ小さいのに。もしかして容器が小さいから成長が止まるのだろうか?
そこで敢えて弟分の容器だけ大きいものに変更してみて、それで変化を見ている。
蓋を閉め忘れてもおとなしく止まっていることもある。けれどもその時は外に出てしまった。そして研究室の中に居るはずだ。
懐中電灯で書棚の下とか探してみるが見つからない。
どうにも見つからないので歩き回るときにガサゴソ音がすることを期待して、その音を待つことにした。
そうやって一週間。さすがにどこかで干上がっていないか心配だ。プラスチックの盆に水を張って置いたが、気休めでしかない。
前にカエルが逃げ出したときは、その水場は役に立たず干物になっているのを数ヶ月後に発見した。
最初の内は寒かったが、少し暖かくなってきた。亀も動きやすくなるから音を発生させる可能性が高まる一方、体力も消耗する。
そんなある昼下がり、ついにガサゴソする音が聞こえた。注意深くその方向を見るが音が止まってしまった。
暫くしてやっとまた音がして、今度は音の発生源を突き止めることができて、脱走亀はようやくご用となったわけである。
脱走中にかなり痩せていた。亀の場合痩せると、甲羅からはみ出す肉が削げる。
自然界の亀は元来そんなに太っていないから、その状態が正常なのかも知れないが、彼らの場合いくら太らせても育たない。
肉付きではなく甲羅の方を大きくして欲しいのだが。
【オオゴキブリ】 - こんな生き物まで飼育中!!
子供の頃から昆虫図鑑を見ていたが、ゴキブリのページは少々苦手だった。図鑑には普段見ないゴキブリが多数載っていた。
その中で気持ち悪い筆頭がイエゴキブリで、実物には未だにお目に掛かったことがない。
気持ち悪い原因の一部分は引きつったような姿で写っているからなのだが、色彩も良くなかった。翅もない。
当時は腹部の蛇腹が気持ち悪く見えていた。その後キリギリスに傾倒したのだから、この感覚は今では失っているのだが。
とにかく当時は翅がない昆虫は蛇腹が直接見えるので総じて苦手。同じく無翅のサツマゴキブリも見たくなかった。
前胸背がせり出して背中側からは頭が見えない。まるで首無しのお化けようだったから、サツマゴキブリはグロテスクに見えた。
けれどもこれらのゴキブリは身の回りにいなかった。
それが佐賀に来て見ることになった。既に知識が付いていて、サツマゴキブリは清潔なことを知っていた。普通のゴキブリ、
と言うとクロゴキブリのことだが、そう言う人間の近くに生活する昆虫は病原菌などを持っている危険性がある。
逆に普段見かけない大多数のゴキブリは、見た目は別として実際には、清潔と言うことになる。
子供の頃に見た強烈な印象、その実物を大人になって初めて目の前にして、それはもはや気持ち悪いと言う感覚ではなかった。
むしろ感動さえ覚えた。
子供時代に図鑑でしか見なかった昆虫に、初めて出会ったなら飼育してみる。別にポリシーとかではないけど自然とそうなる。
実際問題としては飼育可能な昆虫はごく限られ、その限られた昆虫の中にサツマゴキブリも入っていた。
飼育可能とは言っても、餌と生活場所を知っているだけだから、そこから先は試行錯誤。結果的に彼らは丈夫で飼いやすかった。
餌も干からびた野菜とかで充分だった。

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そうやって出会った2種類目のゴキブリがオオゴキブリだ。出会ったのは去年の秋だからかれこれ半年ほど飼っていることになる。
このゴキブリも結構不気味な姿をしている。翅は一応あるのだけれど、すり切れてボロボロになった翅だ。
その翅から大きく身体がはみ出している。すり切れたからではなく元々はみ出している。
何と言っても前胸背に何かに殴られたような凹みがある。「気持ち悪い」と言うよりは「不細工」と表現した方が良いかも知れない。
彼らは森の住人で、クワガタの幼虫みたいに朽ち木を食べて生きている。
シロアリのようにセルロース分解菌を腸内に住まわせていると言うが、最近ではシロアリは菌無しでも分解できるとも聞く。
けれども家の土台をオオゴキブリに食い荒らされたという話は聞かないから、その辺はやはりクワガタの幼虫の方が近いか?
サツマゴキブリにも共通する特徴だが、ゴキブリらしからぬ鈍足で逃げ足は遅い。その代わり体表がやたらと頑丈に出来ている。
その点でもクワガタの生存戦略に似ている。
★家族 そして何より最大の注目は、家族生活だろう。夫婦と子供からなる人間みたいな家族構成で生活していると言うのだ。
正確にはオオゴキブリの仲間のエサキクチキゴキブリで見つかった行動で、オオゴキブリの家族の絆はもう少し緩いらしいが。
実のところ、今飼育中のオオゴキブリは本当にオオゴキブリなのか、それともエサキクチキゴキブリなのか、
まだ幼虫なので判定できないでいる。だからどっちでも良い、... と言う訳でもないんだけど。
夫婦と子供が共同生活をおくる生物はごく少数派だ。哺乳類でも母親と子供か、あるいはもっと大きな群で生活するのが普通。
鳥類に割と夫婦と子供の生活単位が目立つものだから、我々人間は鳥類に家族愛を重ねて見ますよね。
でも鳥類でさえそれが普通かと言うとそうでもない。仲間の哺乳類の中では極めて稀、本当に人間は生物界の異端児なのだ。
その珍しい生活様式を昆虫が持っていたと言うのだから全く驚きで、予想だにしなかった。
普通の昆虫は親と子が全く顔を合わせない生活史で生きている。親は秋の内に死んで、卵で越冬した子供が春に孵化して育つ。
これでは家族生活も何もあったもんじゃない。
親が子の顔を見るには、子供を産んだ後の寿命、つまり後生殖期の長い必要がある。最近よく聞く「おばあちゃん効果」で言えば、
子孫に知恵を授けるために生き続けるのが後生殖期だとも言える。あるいは子供が未熟で、守ってあげるための寿命。
それが長くないと親は我が子の顔を見ることが出来ない。これだけでも昆虫には相当高いハードルだ。
ところがエサキクチキゴキブリの場合、母親だけでなく父親までもが子供と生活を共にすると言う。
人間と全く違う生物が朽ち木の中でひっそりと、同じ家族生活を独自に進化させていた。そのことに私は感銘を受けてしまった。
不格好でゴワゴワした身体のあの昆虫、しかも彼らは一番忌み嫌われるゴキブリの仲間なのに。
夫婦で生活する生物の少なさに、生物界の常識を知って私は孤立感を感じるのだが、なんとゴキブリの中に同志を見出した訳だ。
彼らの脳みそでは我々と同じように思考することは難しかろうが、世界の見え方がどこか我々人間と似ていることはないだろうか。
そんな“うたかたの期待”を彼らに抱いてしまう。


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