【HowTo】 “動く”夜空の万華鏡 ~ 作り方
2017.4.5
以前紹介した「虹の万華鏡」の作り方を公開して、誰でも作成できるようにしようと思う。地元の科学イベントなどで
出展する機会があったら、このページの方法を参考にして頂けたらと思う。
最初に長々と分光器の原理を交えて設計方針を記す。まさに「これを科学イベントなどで使って貰うために」と考えて、
一昨年物理学会誌に投稿してみたのだが、査読者には「どう言う原理でどう言う構造なのか」分からなかったそうだ。
却って高校の物理の先生の方が分かっているかも知れない、と思わなくもないが、
とにかく物理学者でも分光器の構造から説明しないと理解できない、と言うことのようなので、
エッセンスだけ読んで貰っても自力で同じものを作ることは不可能、従って物理学会誌に載せる意味がない。
と言う結論になってしまった。と言うのも、物理学会誌に詳細な原理だとか構造を載せるのは、難しい(確認済)から。
だから仕方なくここに詳細を記すことにした訳だ。
そのため前半は物理屋向けの細かい原理説明になるが、それが後半で「何故そう設計するのか」理由になって行く。
もし理屈を理解できれば、それを基に様々な応用が考えられる。そのような可能性まで提供したいと考えて記述する。
なので前半は少しハイクラス向け(高校物理レベル)と考えて欲しい。
設計方針は「華美追求」
「簡易分光器」と呼ばれるものにはいろいろあって、光を波長で分けて、波長を真面目に測定するためのものもある。
その中でここで作成方法を公開するのは、ひたすら美しさを追求した簡易分光器だ。
小学生から高校生まで、いや大人であっても、分光器を覗いてみたら「わー綺麗! 」と声を上げるようなものを目指す。
そんな方向性の簡易分光器は教材カタログにも載っていて、「虹の万華鏡」と名付けられていたりするのであるが、
教材の「虹の万華鏡」を遥かに凌ぐ美しさを実現しようというのだ。
分光器の構造 と 光を色に分ける原理
ではどのように設計するのか? ここで光を波長で分ける仕掛けとして使うのは、回折格子による回折と干渉である。
一般にはプリズムの方が、光を波長で分ける仕組みとして知られているが、回折格子の方が広い角度に分光される。
そして回折格子にはプリズムより安く手に入るシート状のものがある。
普通に回折格子レプリカを購入すれば何万円もするが、「分光フィルム」とか「回折格子フィルム」と呼ばれるものを
必要な大きさに切って使用すれば、1枚当たり何十円位にしかならない。子ども達に配っても平気だ。
光の波長は数百ナノメートルだが、それより少し広い間隔に並べたスジを格子状に多数入れた透明板に光を通すと、
下の図のようにして(正面以外にも)角度θの方向に回折した光が進む。
図1
このθが図中の下部に書いた式で波長λと関係づけられるので、波長によって回折光の方向が異なり、分光される。
可視光線の波長範囲は380-780nm辺りで、780nmより少し広い間隔の1000nmならば1000本/mmとなる。
更に幅の広い500本/mmだとか、200本/mmのものも売られている。格子間隔は狭い方が光を大きな角度に回折する。
と同時に波長(即ち色)による回折角の違いも大きくなる。
赤い光は波長が長く、650nm付近の光が人間の目には赤く見える。波長が短くなると赤-橙-黄-緑-青-藍-紫の順に、
光の色が変わる。780nmより長い波長の光や、380nmよりも短い波長の光は、人間の目には見えない。
余談だが、厳密には光の色は連続的に変化するので、7色に区分することに意味はない。
実際、民族によって虹の色は違っている。6色だったり5色だったり、それ以上も以下もあって、もう千差万別。
日本でも虹の色の数は時代によって違うのだから、7色には本当に意味がないけれど、都合上7色で話を進める。
話を戻して上の理屈からして、波長の長い赤い光が大きな角度に回折され、橙、黄、と順番に回折の角度が小さくなる。
その様子を、分光器を通して人間が見た場合の見え方を記したのが、下の図である。
図2
まず全ての色の光が混ざった状態では、人間には白い光に見える。その白い光が分光器の左側のスリットから入る。
その光は分光器の中を進んで右の回折格子を通過すると、それぞれの色に依って違った角度に回折される。
回折格子の全ての箇所で光は分かれるが、その光の中で、人間の目に入ってくる光だけを残すと上図のようになる。
人間には分光器の中のスリットのない場所に、色のついたスリットの虚像が見えることになる(図の点線)。
もしここに図のように目盛を付けておくと、見えた場所によってその光の波長がいくつであるか、計算できる筈である。
連続的に全ての波長の光が混ざっていれば、色の違うスリットが繋がって、虹色の帯のように見える。
教材の「虹の万華鏡」
そこで次に、虹色の帯の数を増やす方法を説明する。上述の回折光が出る角度の式は、波長の整数倍(n倍)なので、
条件が許せばn=2やn=3の回折光も見える。それは格子間隔d が広い場合である。
更に反対方向にも回折光が見えるので、n=3の回折光までが見えたなら、合計6本の虹が見えることになる。
それだけではない。市販の分光フィルムには「クロスタイプ」と言うのがあって、縦横十字に回折格子が切ってある。
つまり升目状に回折格子が切ってあるのだ。そうすると直角方向にも虹が見えて、更に斜め方向にも見える。
縦横に「n=1,n=1」の組合せなら、斜め45度に虹ができる。もし「n=3,n=2」とかなら、斜め30度くらいの方向に虹が見える。
こうして放射状に多数の虹が見えるのだから綺麗だ。
教材カタログの「虹の万華鏡」には更に虹を増やす方法も採用されている。回折格子に入って来る光を複数にするのだ。
そうすると複数の光の点(=スリット)の周りに、それぞれ放射状に多数の虹の帯が発生して、大変賑やかに見える。
写真1
このような簡易分光器のことを「虹の万華鏡」などと呼んでいる。簡易分光器の中でも華美を追求した現時点の最先端だ。
その賑やかな「虹の万華鏡」を、更に大きく凌ぐものを作ってやろうというのが、今回の話である。
(工夫1) “★”の形を浮かび上がらせる
ある光に何色の光が混じっているか、言い換えると「どんな波長の光が混じっているか」、それを「スペクトル」と呼ぶ。
そのスペクトルが光によって違っている。混ぜ方を変えてみても、人間の目には同じように見えることがある。
スペクトルは違うのに、即ち光の成分で見たら違うのに、人間の目には同じ色の光に見える、と言う状況だ。
光の波長は連続的に変化させられるから、光の成分は無限に多くの成分から成り立っている。
ところが人間の目は、それを大雑把に3つに分類して、その3つの成分が多いか少ないかで、様々な色を認識している。
所謂「光の3原色」だ。
そこで例えば太陽に近い色の電灯を作りたければ、最低限3つの波長の光を、適切な比率で混ぜれば良いことになる。
もちろん4つの波長の光を混ぜて白い光にすることも、5つの光で白い光にすることも可能だ。
それぞれに応じて適切な比率で混ぜれば良いからだ。蛍光灯やLEDはそれを使って色を出している。
昼光色なら全体で白っぽい光になるような比率で混ぜて、電球色なら全体で黄色っぽい光になるような比率で混ぜる。
混ぜ合わせ方、つまり光の成分毎の強弱なので、使う光の波長は同じものの組合せで、昼光色にも電球色にもできる。
このとき混ぜる光の成分が電灯の種類によって違うのだ。
白熱電球は様々な波長の光が混ざり合っている。これは太陽光と同じ。混ざった結果の色は黄色くて太陽光と違うけど。
蛍光灯は数種類の波長の光だけを使って、混ぜる比率で白くしたり黄色くしたりしている。
太陽型 蛍光灯型
図3
LEDは光の領域によって違い、波長の長い領域では連続的にいろいろな波長の光が混ざっていて、
短波長領域では特定の波長の光が強く出ている。それらが混ざり合って、全体として見ると白や黄色の光になっている。
混ざり合った結果の色と、成分に分けた時の色が、全然対応しない。
「成分に分けると、見た目の色と違って、発光方法で分類される」 … イベントに来た子への説明箇所だ。
そこで太陽光が上の写真1のように見える分光器で、蛍光灯の光を観察したときに、どのように見えるか想像して欲しい。
色付きの「水玉」模様が並んで見えることになる。赤の水玉、橙の水玉、緑の水玉、青の水玉、藍の水玉。
もしスペクトルが太陽光や白熱電球のように連続的だと、水玉は繋がって連続的に色が変化する「帯」になるが、
特定の波長の光だけが強いと、その色の水玉だけが強く出て、次に強い波長の光まで間隔が空いて、水玉は独立する。
これを見せると「虹色の帯よりも、水玉の方が綺麗」と反応する人が多い。
なぜ色のついた水玉の形が出るのかというと、光を分光器に取り入れるスリットの形を単純な円形にしたからである。
図2では左下の方に一箇所だけスリットが設けてあるが、これが図の左側から見たとき円形だと、
目に入って来る光の虚像も円形になる。即ち「水玉」模様になる、と言う仕組みだ。
と言うことはスリットの形を星の形にすれば、赤い“★”、橙の“★”、緑の“★”、... と言う具合に、まるで星空のようだ!
いや、まだ作って見ていないから「星空のようになるはずだ」との予想の基に、厚紙を星の形に切り抜くポンチを探した。
案の定あった。デザインポンチとかシェイプパンチと言うらしい。星以外にも花形だとかハート型だとか、いろいろある。
ただし切り抜く対象は皮革用として作られている。それを流用してみようと言う算段だ。
星の形が大きいと隣の色の星と重なり合って、星らしく見えなくなるから、少しでも小さいデザインポンチが欲しい。
一番小さいもので3mm程度だ。これが余り重ならずに並ぶためにはどう設計したら良いか?
まず回折格子の格子間隔は狭い方が良い。上の話では格子間隔が広い方が良い、と言うことだった。何が違うのか?
虹色の帯を多数出すには格子間隔は広い方が良い。けれどもその虹は短い。波長による回折角の差が少ないから。
そこで波長による回折角の差を大きくすると、星と星の間も開いて、星形がよく見えるようになるはずだ。
太陽光などで観察して虹色の帯を見た場合には、虹色の帯が引き延ばされて長くなっている。それが都合良いのだ。
と言う訳で格子間隔が1000本/mmのものを使うことにする。
また回折の方向は縦横斜めにあった方が賑やかになるから、クロスの1000本/mmの回折格子フィルムを使うことにする。
この仕様の回折格子フィルムは昔買ってあって、当時は波長を測定する分光器を、高校生に作らせようとしていたので、
使いにくくて困っていた。今度は逆にその仕様が具合良い。
大きさ3mmの星を少しでも重ならないように並べるには、分光器の奥行きを大きくすれば良いが、その理屈は簡単だ。
遠くにあるものは小さく見える。一方見える角度は変わらないから、星同士が重なりにくくなる訳だ。
それと同時に“夜空”なんだから、視野全体に“色付き星”や“色付き花”が広がっていて欲しい。
つまり分光器の幅(図2で言うと縦方向)も大きくしたい。人間の視野で、形をはっきりと認識できるのは、
上下左右に45度程度だろうか。すると上下左右に、奥行きの倍位もある太短い分光器になる。それで奥行きを大きく、
と言うのだから大変だ。全てが大きくなる。
(工夫2) 色付きの“★”に動きまわらせる
ところで元々「虹の万華鏡」とは呼ばれているが、万華鏡に比べて物足りないところがある。それは動きに関してだ。
普通の万華鏡は大概覗いた経験があると思うが、万華鏡全体を回すと、色の付いた破片が複雑に動いて綺麗。
ところが教材になっている「虹の万華鏡」は、回転しても全体が一体になって回るだけで、特段どうと言うこともない。
「万華鏡」の名に恥じない動きをさせたい、と言う訳だ。
それには分光器の前後を別々に動かせば良い筈だ。つまり明かりを取り入れるスリット部分(=星や花の穴の部分)と、
光を分ける回折格子の部分を一体化させないで、スリット部分だけ回したり、回折格子だけ回したりする。
例えば回折格子だけ回せば、星や花がそれぞれのスリット位置を中心にして、その周りで色付きになって回転する。
そうやって互いに交差するように動くようになると一気に複雑な動きになる筈だ。(ここに動画)
そのためには分光器の側面は円筒状にする必要がある。円筒が擦れ合うようにして、余計な光を入れずに回転する。
そういう訳で、設計すべきは「太い円筒状の分光器」になる。
多数の子ども達に作らせるには、数が揃う材料でないとならない。しかも学生バイトが前日に切り分け作業をする。
罫線が入っていて欲しい。そう言う厚紙は工作用紙しか思いつかないので、調べると最大サイズは4つ切り。
円筒の側面は帯状の紙をしごいて丸みを付けるので、紙の繊維に直角方向に取る必要がある。
そうすると工作用紙の短辺方向になってしまい、円周の長さが37cm程度までが限界だ。
直径に直すと11cm少々である。奥行きはその半分だから5.5cmである。これが工作用紙で量産できる最大サイズだ。
3mmの“★”が一部重なるが、まずまず分離する大きさだ。これで基本設計は完了だ。
細かいことだが、のぞき窓(ここに回折格子フィルムを貼る)の周りに、余計な光を遮るためのツバをつけた方が良い。
例えば室内で蛍光灯の光を観察するとき、窓からの太陽光や室内の蛍光灯の光であっても、
そう言う余分な光が、スリットと回折格子を通過しないで、横から入ってきて回折格子に反射して目に入る。
当然その光は分光されなかったり、反射の時に分光されたとしても星の形になることはあり得ない。
そう言う余計な光が入って来るのを防ぐために、のぞき窓の周りを囲むように、短い円筒状のツバを付けておく訳だ。
結局工作用紙のパーツは、側面に帯状のもの2枚(すり合わせ)、採光側と回折格子側に円形のもの1枚ずつ計2枚、
接眼部ツバに小さい帯状のもの1枚、合計5枚である。
具体的設計と材料の準備
工作用紙は複数社あるが、50cm×36cmの升目が印刷してあって、その周囲に1.5-2.0cm程度の余白が付いている。
それから3つ分の材料を切り出すことにした。側面の工作用紙は4つ切りの短辺を余白まで使って、
長さ40cm弱,幅5.5cmの帯と、それより幅の細い3cmの帯にした。これを3セットで工作用紙の長辺方向に25.5cm使う。
円形の2枚は手間を省いて12cm(11cm以上必要)の正方形にする。短辺方向に3枚取れて長辺方向に2枚で計6枚だ。
けれども長辺方向には、ここでも余白を使うことにすると、目盛部分については10cm×2=20cmしか必要としない。
のぞき窓のツバを幅1.5cmとすると、1.5cm×3枚=4.5cmで、全体でちょうど50cmになる。
更に側面の円筒は、2枚の直径が少しだけ違っている必要がある。ここでは3.0cmの方の直径を3mm程大きくした。
高さ3.0cmの円筒の中に高さ5.5cmの円筒が入って、くるくる回るようにする算段だ。
因みに工作用紙の厚みは0.5mm程度なので、直径は1.0mm差でぎりぎり入るが、隙間がないと動かせないし、
継ぎ合わせ目同士が通過するときには、余分にもう1.0mm欲しい。何だかんだで作って見ると、+2mmの差が欲しい。
そこで切りよく一周が1cm違うように設計することにした。
これらの帯には、正しい直径になる円周の位置に“貼り合わせ目印”を書いておく。子どもの作業を簡単にするためだ。
以上を一枚の工作用紙に書き込んだら、下の図のようになる。
図4 工作用紙の切り分け (分光器3つ分)
灰色の部分は使わないが、ボンドを拭き取ったりするのに使えるので、捨てずにイベント会場に持っていくと良い。
外側の太い実線が、方眼目盛の印刷されていない余白まで含めた、4つ切りサイズ工作用紙の縁。
実践が「切る線」、点線が「書く線」である。「書く線」は鉛筆などで書けば良いが、弱くうっすらと書くのがコツだ。
強く書くとすぐにその部分が曲がりやすくなってしまって、円筒にする時にそこが折れて角張って扱いにくい。
実際の切り分け作業では、3種類の帯はそれぞれ同じサイズの帯が3枚くっついた状態で、一旦切り分けを中断して、
点線の位置に線を書いてから、その後で3枚に切り分ける。その方が作業効率が良いからだ。
帯の「書く線」の位置は次のようにして決めている。まず具合良く直径が11cm程度の円筒形のものがないかと探した。
100均ショップのセ○アで11cm弱の透明容器を見つけて、それをそのまま使って、内側の高さ5.5cm円筒のガイドに、
その容器に工作用紙を二重に巻き付けたものを作って、それが外側の高さ3.0cm円筒のガイドになる、と言う寸法だ。
それぞれそのサイズより少し大きくして、工作用紙の5mm間隔の目盛を選ぶと、上の図のような数字になったのだが、
実は工作用紙の方眼目盛は不正確で、会社によっても少し違っている。更に余白部分の幅は益々会社によって違う。
そこで現物合わせで決める必要がある。
更に回折格子フィルムも事前に切り分けておく。大きさは4.5cm四方の正方形。必要な“のぞき窓”の大きさで決めた。
のぞき窓の周囲のツバが1.5cmあるので、のぞき窓は最低その倍の3.0cm以上の直径が欲しい。
それを覆って少し余裕のあるサイズが、回折格子フィルムに必要だ。手持ちのフィルムが幅63cm強のロールなので、
4.5cmずつに切り分けていくと14枚でほぼぴったりだ。
●材料 以上をまとめると、分光器1つ分の材料は次の通り。
・工作用紙A 5.5cm×約40cm 1枚
・工作用紙B 3.0cm×約40cm 1枚
・工作用紙C 1.5cm×約15.5cm 1枚
・工作用紙D 12cm×約12cm 2枚
・回折格子フィルム 4.5cm×4.5cm 1枚
●道具 これに対して組み立てに使用する道具類は非常に多い。
・木工ボンド
・鉛筆
・コンパスカッター (下の組み立て手順に出てくるタイプが、怪我しにくく割と扱いやすい)
・竹べら (実際は竹かご用の竹を短く鋏で切ったもの。ボンドを掻き取ったり撫で付けたりするために使う)
・ウェットティッシュ (竹べらや机に付いた余分なボンドを拭くのに使う)
・小型タッパー (工作用紙に曲がり癖を付けるために使う。角が程良く丸み帯びていれば何でも構わない)
・板 (上の作業をするときの敷物…イベント会場の机にシートが掛かっているため必要になった)
・直径11cm弱のプラ円盤 (工作用紙DにAを貼るときの位置決め用。ボール盤で作成した)
・上より3mm程直径の大きいプラ円盤 (もう1枚のDにBを貼るときの位置決め用。同上)
・直径11cm弱の透明容器
・上に工作用紙を二重に巻いたもの
・デザインポンチ各種 (星形小、星形中、花形小、ハート型小、ダイヤ型小、しずく型小、を用意した)
・円ポンチ2種 (直径1.5mmと2.0mmを用意した)
・ポンチ台 (下から、机保護の段ボール、重量確保のレンガ板、ポンチ刃の受け止め用カッター台2枚、の順に重ねる)
・小型金槌 (大小2種類用意した。ポンチの種類や子どもの腕力で金槌を使い分けるため)
・画鋲、針金 (ポンチの中に打ち抜いた工作用紙破片が詰まったときに押し出す)
・幅22cmの台所用ラップ
2枚のプラ円盤は大きさがわずかに違うだけで、重ねて見ないとどちらの大きさなのか分からないので、色違いにした。
具体的には、水色透明と無色透明のアクリル板を使用した。透明な板にしたのは通常のプラ定規と同じ理由。
透明だと下が見えてずれたときに元に戻す場合など、作業性が向上するからだ。
作成手順は次のように行った。まずボール盤に自在錐を付けて、目的の直径より6-7mm大きな円盤を作る。
自在錐でできたプラ円盤中心の穴をリーマーで広げて、切断砥石を固定する軸の直径に合わせ、次はプラ円盤を回す。
回るプラ円盤の縁にヤスリの角を当てて削り、時々ノギスで確かめ目的の直径にする。なおヤスリは少し斜めに当てた。
縁が斜めになっている方が鉛筆で円を描くのに都合良いからだ。
因みにこのプラ円盤の代わりに通常のコンパスを使っても構わないが、コンパスの中心の穴が残ってしまうのが難点。
明かり取り側の場合に、その小さな穴からも光が入って来てしまう。
更に小さな子どもにはコンパスは扱いにくくて、少々危険でもある。それを避けたくて、プラ円盤作成の手間を掛けた。
そのための手間であるが、誰もが真似できる工作ではないような気がしている。
組み立て手順
ここからはイベント会場で子どもが組み立てる手順だが、小さな子でも余り手助けを必要としないように工夫してある。
実際には小学校2-3年生くらいが中心だが、「来る者拒まず」なので、中には幼稚園児や、時には大人までやってくる。
例えば高校生に作らせるような状況であれば、当然やり方は違ってくるだろう。
1. 工作用紙A,B,Cを筒にする
板を敷き、その上に工作用紙A,B,Cを裏返しに置き、上からタッパーで押さえながら引いてしごき、曲がり癖を付ける。
このときのコツは、席を立った方が力が入る点。もし座ったままやりにくそうにしていたら立つように促す。
ただし高学年の子は逆に力を入れすぎて、工作用紙が2枚に剥がれてしまうこともある。
力の入れ加減は、A,B,Cの順に弱くするのが良く、実際の作業の順番はC,B,Aのように、徐々に力を入れた方が良い。
また一方向にしごいたら、手に持っていた部分が残るので、逆の端を掴んで更にしごく。曲がらなければ繰り返す。
工作用紙の表裏は逆でも良いが、表を下にする理由が2つある。1つは次の作業の容易さで、目盛が外に来て見やすい。
もう1つは分光器内部の反射抑制。工作用紙は裏面の方が灰色で幾らか光の反射が少ない。
表面に書いてある“貼り合わせ目印”から先の部分に木工ボンドを塗り (注:ボンドは少なく薄く伸ばす)、貼り合わせる。
貼り合わせがずれると光が漏れるので正確に。A,B,C全てについて貼り合わせる。
2. 明かり取り側の作成
工作用紙Dの内の1枚を裏返しにして置き、その上にプラ円盤(少し大きい方)を載せて、縁を鉛筆でなぞって円を描く。
ポンチ台を机に出してその上に載せ、今描いた円の中の好きな場所にポンチを当てて、金槌で叩いて穴を空ける。
(注意) ポンチによって力加減が大幅に違う。星形は力が必要で、最も小さい力で済むのは円形だ。
穴の配置は自由だが、星形や花型を先に配置して全体を決めて行きたくなるのが普通だろう。
すると最初は大きな力が要るから、大きい方の金槌で強く叩く。ところがその後のポンチは力が要らなくなってくる。
特に円ポンチはすぐカッター台を突き破って、下のレンガを叩いて刃を傷めてしまうので、補助者の監督が欠かせない。
力を弱めさせたり、金槌を小さい方に交換させたりする。
なおポンチの穴は沢山開けたくなるが、程々に抑えた方が良い。完成したときに色のついた星や花の形が見えるのは、
穴を開けていない場所だからだ。「デザインポンチは各1つ、円ポンチは合計7つ」を目安に作らせた。
その上に先程筒にしたBを貼る。まずBの縁にぐるりと一周木工ボンドを付けて (この作業は少し器用さを要求される)、
Dに描いた鉛筆の円に合わせて貼りつける。手先が震えてボンドが付けにくければ、まず竹べらにボンドを取って、
その竹べらのボンドをBの縁に付ける方法もある。
BをDに貼ったら、まだちゃんと接着しない内に、Bの筒の中に工作用紙を二重に巻いた透明容器を押し込んで、
歪みを補正して正確な円筒形にする。位置が決まったら、はみ出したボンドを竹べらで撫で付けて、接着を強化する。
透明容器を外して中にはみ出したボンドも竹べらで撫で付ける。この作業でボンドの乾きも促進する。
3. のぞき窓側の作成
もう1枚の工作用紙Dを裏返しにして置いて、その上に小さい方のプラ円盤を載せて、鉛筆で縁をなぞって円を描く。
机にカッター台を敷いて(忘れやすいので要注意! )、その上に載せてコンパスカッターで直径3.5cmの円を開ける。
この直径3.5cmの穴がのぞき窓になる。
そこに回折格子フィルムを木工ボンドで貼る。方法は、回折格子フィルムを載せた状態で、フィルムの角をめくり上げ、
と言うよりフィルムの曲がりで勝手にめくれるように置くのが良いが、隙間にボンドを少量出して工作用紙と接着する。
ここでフィルムは4角だけ接着すれば良く、フィルムの窓部分にボンドが付かないようにすることが肝心。
ボンドが多すぎると良くないのはここでも同様。大多数の子どもが全工程で、ボンド過多で接着に苦労する傾向にある。
フィルムを貼ったDに、工作用紙Aの筒を貼りつける。手順はBの時(2.)と同様。
(注意) 注意すべき点は、Aの向きである。AもBも工作用紙の継ぎ目があって、それが段差になって引っかかる原因だ。
すると完成後にその箇所だけ巧く回転しない。引っかからないようにするには2つの段差を上図のように合わせたい。
それには今置いてある状態で見た時に、継ぎ目の重なり方をAと同じようにする。頭の中で動かして見るのが苦手なら、
ボンドをつける前にまず置いてみて、Aと比べてみると良い。
Aを貼ったらひっくり返し、のぞき窓を囲むように工作用紙Cの円筒を貼りつける。Cは正確な円筒でなくても大丈夫だが、
フィルム部分にボンドが付かないように気をつける (この失敗が割と多い! )。
4. 合体、完成
「2.明かり取り側」を下向きに置いてその上に、22cm四方程度(大雑把でOK)のラップを被せ、上から「3.のぞき窓側」を、
ラップごと押し込む。この工程ではラップがくしゃくしゃになってしまい易いので、補助者がラップを広げてあげるのが良い。
(このラップは木工ボンドが乾くまで、余計な箇所が接着しないためのもの。乾いたら外してもOK)
完成すると子どもは大喜びで、側面の円筒部分を掴んで勢いよく走り出したりするが、この持ち方は壊してしまう原因だ。
大概の子どもは持ち方を注意してあげても、一瞬で忘れて元に戻ってしまうから難しいけれど。
まだボンドが生乾きで側面から力を加えるとズレてしまう場合があるので、工作用紙Dのはみ出した角をつまむのが良い。
更に上になっている方(普通は接眼側)だけつまみ上げると、下が抜け落ちてしまう。… すると子どもは慌てて元に戻す。
従って下の方の工作用紙Dの角を持ち上げて、下に手を入れて下から支える。これが最善だ。
操作・観察の方法
観察するには散乱光を取り込みたい。眼前に星空が広がるには、光が様々な角度から入ってきている必要があるからだ。
ところが通常の光源は光の発生箇所が決まっていて、例えば蛍光灯の光だけがいろいろな角度から来ることはまずない。
そこで分光器の直前にディフューザーをかざす。ディフューザーは白いレジ袋で充分だ。
観察方法を近くにいた学生に実演して貰った(左上写真)。何ならこのレジ袋は分光器に貼りつけてしまっても構わない。
ところで星や花の形が見えるのは至近距離なので、焦点が合いにくい。特に近眼の人を除いて、くっきり見えるためには、
ルーペや老眼鏡を使うと良い。ルーペや老眼鏡は100均などの安物で充分だが、レンズの度は
強い方が良い人が多いだろう (その人の目の近視/遠視度合によって違ってくるので、それぞれ試すしかない)。
さて夜空の星を動き回らせるには、分光器を前後別々に回す(右上写真)。のぞき窓側のみ回すと色付き星だけが回って、
明かり取り側のみ回すとポンチ穴の星(白くて強い光の星)も回るが、そこから出る色付き星の方向が不変だ(ここに動画)。
もちろん片方固定する必要はないので、両方とも好きに動かせば、それが一番賑やかだ。
操作方法が分かったら、光の光源による違いを是非観察してみて欲しい。星等の形が色付きで見えるのは蛍光灯だけだ。
もちろん電球型蛍光灯でも構わないし、昼光色でも電球色でも、蛍光灯方式の発光をしていれば色付き“★”が見える。
LED電球だとか、白熱電球(近頃本当に減った。教育上は必要なので私は沢山買い込んでいる)では、虹色の帯が見える。
こうして観察した経験を通じて、光の成分(スペクトル)を学ぶのだ。
更なる発展
円筒型の紙容器を見つけて、上記の分光器の2倍程のものも試作して見た。それによって大きなデザインポンチも使える。
そこでトレーシングペーパーを使って“★”の穴の中に一回り小さい“★”を入れてみたり、花の中に“●”を入れたり、
複数のポンチで花火にしてみるなど、もっと複雑な図案も可能になる。(写真はここ)
複雑化できると言うことは図案のバリエーションも一気に広がり、様々な模様を描くことができる。
しかしこの分光器は工作精度が要求されて、子どもに作らせるのは難しく、また工作に掛かる手間と時間も大幅に増える。
更に円筒容器がそんなに沢山手に入らない。
そこで通常の万華鏡のように内部に、縦方向に三面鏡を仕組んでみることも試して見た。すると光が鏡で反射することで、
直径が小さくても横に広がりがあるように見える。のだが、結果は「良いような悪いような」だった。
反射によって増殖した“★”は元と同じ形なので、バリエーションは得られない。
更にポンチで穴を開けるスペースも元の半分以下になる。円の面積の半分以上が三面鏡で囲まれる正三角形の外側だ。
だから折角デザインのバリエーションが増えても、その内の1つか、せいぜい2つを選んで打つことしかできないのである。
如何にして穴を減らすか、と言う話になってしまって何とも具合悪い。
従って、分光器の奥行きを伸ばしながらも視界を広げる方策としては、三面鏡を使う方法は満足のいく結果ではなかった。
使ったアクリル鏡の精度も不十分だったのか (普通に反射する限りは良い部類なのだが)、“★”の形がぼやけてしまった。
反射によって大増殖した“★”は互いに重なり見にくい上、更にその輪郭もぼやけて益々“★”の形が見えない。
けれども動きに関しては、更に複雑で面白い動きになった。元々の動きに通常の万華鏡の動きが重なるのだから当然だ。
デザインポンチは諦めて、動きだけを追求して三面鏡を入れる考え方はあると思う。
研究室トップ