石油価格下落に対するOPECの対応 
      - やはりそう出たか!         2014.12.4 
   

石油価格が下落している、と近頃テレビのニュースなどで頻繁に報道されている。そこに注釈が付くのも半ばお決まりだ。
日本では通貨の円も下落しているので実感が乏しいが、基軸通貨のドルで見ると結構な下落率だと言う。
現時点では夏頃までの高値水準に対して30%ほどの下落率だ。これを大幅と見るかどうかは何と比較するかの問題だ。
それ以前の高騰が500%以上だったのを考えると小さいが、その高騰は10年ほどの期間を通じて進行したものだから、
今般の下落幅はまだ小さいながら、下落スピードが速いことになる。
昨年の仮説
石油価格については昨年も議論した。その時の議論を簡単にお復習いして置いた方が良いかも知れない。
過去10年ほどの間に進んだ石油価格上昇を議論した後で、将来の石油価格を予測していた。
結論は「当面の間は石油価格は高値安定するだろう」、即ち高騰は収束し、さりとて元の安値水準にも戻らない。
ここで高値安定と言っても、細かく見るとその時の経済状況の変動を受けて上下しながら、中長期的に見れば高値安定。
その変動幅の中の細かい下落が今般の下落だ、ということが第一点。
次になぜ高値安定と予測したのだったか? シェールオイルが関係していた。シェールオイルの採掘には費用が掛かる。
一方増産余力があるのはシェールオイルなので、シェールオイルの採算ラインを石油価格が下回ると生産量が減り、
価格上昇圧力が高まる。逆にシェールオイルの採算ライン以上なら、増産が進み価格上昇は落ち着くと言う理屈だった。
今は世界経済が冷え込んでいるため、シェールオイルの増産は必要がない。
けれども採掘設備の建設は計画から生産開始まで年数が掛かるから、すぐには増産が止まらない。
今はそう言うステージにあるので、生産量が需要を上回って価格が下落したというわけである。そういう時には従来なら、
OPECが生産調整(減産)をして価格が下がらないようにしていたが、今回は違うという。
その理由を解説するテレビに、「まさに予想通りではないか!」と膝を叩いた。
即ち今回の生産量据え置きに際して、OPECが念頭に置いているのはライバルであるシェールオイルだという話である。
シェールオイルは少しの価格下落でも採算ラインを割り込む。一方OPECの従来型石油は価格下落に充分な余力がある。
そこでライバルに打撃を与えるには石油価格を下げた方が得策というのである。
その作戦が可能なのは需要が減っている今のうちだ。従来型石油の増産余力は小さいので、
需要増加の局面ではシェールオイルが有利である。逆に従来型石油には供給がだぶついて価格が下がった方が有利だ。
もちろん収入が減るのは両者同じだが、競争という観点から見ると価格下落はOPECにとってウェルカムなのだ。
ニュースを聞いて不安がよぎる
最初にOPECが従来と異なって生産調整をしない、と報じられたとき、私は真っ先にシェールオイル絡みの戦略を疑った。
それと同時に気がかりにも感じていた。
「これを聞いてシェールオイル絡みを連想する人は皆無に近い。昨年の読者の大多数はニュースをどう聞くのか?」
そもそもシェールオイルを疑うのは自分の仮説に過ぎない。それで正しいだろうか? 昨年の自分の予測に沿っていれば、
シェールオイル絡みであるべきで、まさにライバルのシェールオイルに打撃を与えるために、
自らの利益も犠牲にして価格下落を放置する、と言う動機が背後にある筈なのだが、それが正しいかどうか?
そんなわけで今般の石油価格下落は、私にとって「自分の仮説が検証される場面の到来」のような意味合いが生じていた。
結果的に仮説の正しいことをテレビは伝えた。当然ながらOPEC自身は生産量据え置きの動機を明かすことはしない。
けれどもそれを見た識者が思いついた理由付けは、まさに私が昨年考えたシナリオに沿ったものだった。
当初は据え置きによって更に石油価格が下落して、円安に苦しむ日本企業に追い風だ、と言う分析ばかりが聞こえていた。
やっとOPECの動機に関する上記の解説が出てくるようになったとき、
よっしゃー、仮説の検証に勝ったぞ!
と言う具合だったのである。厳密な検証ではないが、多くの識者が後から考えて以前私が考えたメカニズムに辿り着いた。
そう言うことを意味していた。
気をよくして更に予測してみる
もしOPECがシェールオイルとの競争を動機に生産量を据え置いたのだとするなら、以前のような安値になる前に減産する。
目下30%もの下落だから、そろそろシェールオイルの生産には相当なダメージになっている筈だ。
シェールオイルの採算ラインを割り込んだらOPECは目的を達するわけで、それ以上価格を下げて利益を減らす意味はない。
そこでこの価格下落局面はそんなに長期間続かず、最終的な下落幅も大きくはならないと予想される。
即ち昨年の私の予測通り、「(以前の石油価格ら見ての)高値が持続したまま続き、その幅の範囲の下落に止まる」であろう。
果たしてそうなるかどうか? 今回は私以外のテレビ解説者も同じ予測を立てていることになる。
一方長期的に見ると、OPECには勝算が見えにくい。従来型石油の緩やかな減産をシェールオイル増産が穴埋めしていた。
従来型の石油は資源枯渇に向かう初期段階にあるわけで、それが原因で増産余力がなくなっている。
もし増産の余力があるのであれば、もっと早くに増産して石油価格を下げることでシェールオイルを叩くことができた。
けれども増産の余力がないから、少しずつではあるがシェールオイルにシェアを奪われるのを食い止められない。
そんな時に訪れたチャンスが、現在の石油需要低迷である。増産せずに現状維持で効果を発揮する。
そうするとこの先どうなるかは、石油需要によって大きく変わることになるので、様々なケースを想定してみよう。
石油の需要が再び高まれば増産余力のあるシェールオイルだし、今のままでも従来型の石油は徐々に生産量が減る。
このまま継続的に石油需要が低下し続ければシェールオイルには勝てるだろうが、
それは石油全体が他のエネルギー資源に負けたか、あるいは最悪の結末、即ち人類が文明の持続的発展に失敗したとき、
いずれにしてもOPECにとって勝利のシナリオではない。
だからOPEC諸国の視線は既に石油以後の産業に注がれていると言う。教育に力を注いで工業などを発展させる努力や、
観光産業の振興、同じエネルギーでも広大な砂漠を利用した太陽光発電、そう言う方向に石油で得た富を振り向けている。
石油脱却に向けた長い助走路を走り始めたOPECにとって、今回の対応は長期的なものではないだろう。

(写真について) 佐賀市内の公園で撮影したもので、毎年この近くでホタルが飛ぶ。これをいろいろなところに使っている。
まずは一昨年発行の拙著『「青き清浄の地」としての里山』の表紙の絵のモデルになった風景(のひとつ)がこの写真である。
と言っても写真の橋よりもひなびたイメージにしてあるが...。説明のため再掲しよう。
    
すぐには素人の絵だとは気づかれないようだが、表紙の淡い水彩画を含めて、拙著に載せた絵は全て自分で描いた。
淡い色調自体は文字を邪魔しないためで、印刷所で微調整して貰った。
原画も淡く描いたのは確かだが、それをスキャンした画像を調整して印刷機の限界を攻めるのは最初から念頭にあった。
問題は印刷所がその面倒な作業をやってくれるかどうかだった。淡い色調を破綻しないように印刷で出すのは大変である。
この表紙を見た姪っ子が「おばあちゃんの絵に似ている」と言ったらしい。
おばあちゃんとは私の母。以前母から頼まれて母が描いた絵を葉書に印刷したことがある。
非常に淡い色調の柔らかい絵を描くのだが、そのため色が飛んでしまいやすく、すぐ真っ白になってしまう。
そこで少し濃く調整すると今度はどぎつくなって原画の柔らかさが出ない。専門家に頼んだ結果、どぎつくなって母は落胆。
どうにかして欲しいと私に頼んできたのだが、何をやって欲しいかは分かるのでとりあえずやってあげた。
例えば緑色がちょうど良い淡い色になったとき、黄色が濃すぎたり、赤が淡すぎたり、...。
その調整には繰り返し印刷しなければならない。と言うのも、画面で良さそうでも印刷すると白飛びしたりするからである。
そして調整した画像はそのプリンタに合わせているので、他のプリンタでは巧く印刷できない。紙の種類も選ぶ。
更にこれはインクジェットプリンタの弱点なのだが、暫くすると色調が変化する。通常なら平気な微妙な変化であっても、
母の描く絵には致命傷になる。だから印刷の度に調整し直さなければならない。
まあ最後の面倒は印刷所には無関係だが、あまりに大変なので、母に「今度からあなたに頼むわ」と言われたときは断った。
その大変な作業を印刷所は親切にやってくれたという訳だ。
そのおかげで満足のいく色調の絵になって、印刷所には感謝している。当然だが調整の難しさを私が知らないと思ったようで、
印刷所の担当者は「淡い色調の絵は難しいので、なかなか満足のいく色は出せないと思うが努力する」と断りを入れてきた。
印刷したサンプルや淡く調整する前の画像ファイルなど、調整のために必要なものを揃えて渡したのが良かったかも知れない。
母の絵を印刷した“専門家”のレベルとは全然違って、満足できる絵を一発で作ってくれた。
だから気をつけて欲しい。実は上の表紙絵を画面で見たときの画像は、貴方が使っているディスプレイの影響で実物と違う。
一応私のディスプレイでは似た色調に見えるように再調整したが、ディスプレイが違えば違って見える。
そんなわけで自分のディスプレイに合わせて細部まで調整しても余り意味がないので、程々に調整したところで止めてある。
画面はそのつもりで見るとして、拙著の実物をお持ちの人はそちらを見て欲しい。
さて写真の話に戻ろう。毎年夏に大学で開かれるオープンキャンパスで展示するパネルの背景にも、この写真を使っている。
今度は写真自体を淡い色調に調整して、前面の文字などを邪魔しないようにしてある。
そのパネルは「環境・技術分野」のホームページ (更に「環境・技術分野の特色」→「環境浄化の話」と進む) にも掲載しているが、
ここでもまた色調はディスプレイで異なることに注意する必要がある。


                                 研究室トップ