「青き清浄の地」としての里山
  - 生物多様性からナウシカへの思索 -
    

    九州大学出版会 2012年10月10日 224ページ 定価1,800円(税別)
    ISBN978-4-7985-0081-2


人間は自然に対して弊害であることしかできないのか?
 こうした人間否定の思想への反証が、科学的根拠に基づいて与えられる。

前半では里山生態系の生物多様性を、自然生態系と比較して考察。
中盤でそれを受けて発想の転換を迫り、後半では新たな環境思想の構築へと向かう。
その文脈の中に宮崎駿作品のメッセージがほの見えてくる。

帯より
 「人間=自然に弊害」はウソ!?
 逆に自然は私達人間を必要としていた。
 里山の生物への科学的分析によって明かされるのは、
 宮崎駿作品に通じる未来への希望である。

第一章冒頭より
 初めて「里山」という言葉を知ったのはいつの頃だったか、「そうそうあれのことだよね。
 でも何だか良いネーミングとは思わないけどな」と思ったものである。それよりも更に古く、
 原生自然のブナ林などの森林を、人間の開発の手から守ろうと世間が立ち上がって間も
 ない時期に、「それでは草原の生き物たちはどうすれば良いのだろうか」と筆者は疑問に
 思っていた。

目次
はじめに
 本書のアウトライン、自然への共感
里山の地理的範囲
第一章 里山の生態系
 一 生態系への価値判断
  原植生の探求、植林と楠、植生自然度階級-科学研究の方法、「富士山の蝶」
 二 里山生態系の保護に伴う困難
  草地と雑木林、里山の保全作業、保全基準の問題
 三 生物多様性から見た里山
  生物多様度指数、里山生態系の構造、里山全体の生物多様度
第二章 発想の転換
 一 里山保護活動の思想的矛盾
  「私達が私達の行動を保護する」、自作自演の皮肉な倒錯
 二 自然に対する人間の影響
  植生自然度から生物多様度へ、楠再考、人間=自然環境に影響力
 三 「自然と人間の良い関係」
  里山における自然と人間の関係、「共生」概念の検討、「里山」の新しい属性
第三章 「青き清浄の地」
 一 稲葉の「青き清浄の地」との一致
  「里山」に対する我々の態度、ナウシカの態度
 二 稲葉の「青き清浄の地」との相違
  絶対性を持たせるか、戦争状態への麻痺、現実の江戸社会、向こうからやってくるか
 三 新しい環境思想
  里山論の定式化、環境思想の概観、里山の倫理学
 四 回避不能な未来
  里山的生産構造の不可避的再来、過大な人口、イースター島-食糧を巡る争い、危機回避の可能性
第四章 宮崎駿の目指した理想郷
 一 ナウシカの愛する「自然」
  「自然」と「人間」の境界、ナウシカの態度
 二 宮崎作品の中の「自然と人間の良い関係」
  腐海との和解-映画『風の谷のナウシカ』、アシタカの願い-映画『もののけ姫』
 三 「里山」のメッセージ性
  アシタカへの希望、新しい「里山」の意味を受けて
補足
 科学上の問題、里山の保全活動に対して、「里山」は日本限定なのか
引用文献
おわりに

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